■第8回 町内の世界遺産(1) 熊野那智大社
7月7日には、「紀伊山地の霊場と参詣道」は世界遺産登録20周年を迎えました。熊野那智大社・青岸渡寺などの登録社寺では記念行事が実施され、各地で20周年が祝われました。今月は、町内の登録資産のひとつである熊野那智大社についてお話します。
当神社は那智の滝に対する自然崇拝を起源として生まれました。そのため、那智の滝を神格化した飛瀧権現(ひろうごんげん)が熊野十二所権現と並んで祀られています。熊野十二所権現は熊野三山の神社に共通して祀られる12柱の神々ですが、飛瀧権現は那智大社でしかお参りできない神様となっています。
そして、那智の滝のふもとには飛瀧神社が所在しています。当神社は、ご神体である那智の滝を祀る神社となっており、本殿等がないシンプルなつくりとなっていることが特徴です。
このほかにも那智山全体では、那智四十八滝ともよばれるたくさんの滝が存在しています。それらは那智大社の聖域内になりますので、普段は立ち入り禁止となっています。そのなかで最大の規模を誇るものが那智の滝と呼ばれる「一の滝」となっています。
那智の滝は高さ133メートル、幅13メートル、滝壺の深さは10メートルの名瀑です。落差日本一でもあるこの滝は現在でも、世界中からの崇敬を集めています。また、那智の滝のふもとは多数の仏教遺物が発見された「那智経塚」と呼ばれる遺跡となっています。中世期のものを中心とする多くの遺物が発見され、那智の滝が長期間にわたって信仰されてきたことがうかがえます。
そんな那智の滝の上方にある熊野那智大社は第一殿から第六殿、御県彦社(みあがたひこしゃ)、鈴門、瑞垣(みずがき)が重要文化財指定されており、それぞれ江戸末期ごろの建立となっています。そのなかで、御県彦社はヤタガラスが祀られている神社です。
ヤタガラスは熊野の神様の使いとされ、神武天皇を熊野に導いたことから良い方向に導く存在と信仰されています。
また、ヤタガラスは日本サッカー協会のエンブレムでもあります。これは当町の名誉町民であり、日本サッカーの始祖とされる中村覺之助に由来するとされています。ヤタガラスとサッカーの関係には、当町がきっかけになっていたのかもしれませんね。
このような熊野那智大社には、隣接するようにして青岸渡寺が並んでいます。次回は、この青岸渡寺についてお話していきます。
文・前田 愛佳(学芸員)
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