少子高齢化が進み、加須市の高齢化率(人口に占める65歳以上の割合)は3割を超え、今後もますます上昇していくことが見込まれています。
高齢になり自動車を運転しなくなると、それまで利用していたお店に行けなくなったり、体が不自由になると、徒歩や自転車で通っていたスーパーが遠く感じられたりします。家族や友だちに頼んで連れて行ってもらうにも、気が引けることもあります。
そんなときに助かるのが、市内113カ所を回る移動スーパー。トラックの荷台に総菜や野菜などの生鮮食品、日用品など600品目ほどの商品を積んで、地域の細かなスポットを回っています。商品を前に自分で好きなものを買える楽しみは、移動スーパーならではといえます。
そして、買い物に集まった近所の人たちの間で、自然と生まれる会話も移動スーパーの魅力のひとつ。会話を楽しみに利用する方もいるようです。
日常の買い物支援と、会話や外出の楽しみを提供する移動スーパーは、コミュニティの場にもなっています。
■地域に応援されて移動販売車が走る
移動スーパーは、市と協定を締結した3事業所と地域ブロンズ会議が、連携・協力して行われています。
※高齢者を地域全体で支え合うことを目的に、地域団体や住民が集まり、話し合って活動する「地域支え合いの仕組みづくり」の場のこと。
■買い物はもちろん、地域の集いの場に
○Point1 買い物支援
自宅近くまで販売に来てくれるので、自動車に乗れなくても買い物ができます。特に総菜や生鮮食品は充実の品ぞろえです。
○Point2 地域の見守り
「○○さん、2週間来てないな。民生委員さんに相談してみよう」。移動スーパーでは、地域の高齢者の見守りも行っています。
○Point3 地域の集いの場
自分で商品を選ぶ楽しみがある移動スーパーが外出のきっかけになったり、そこで会った近所の方との交流の場にもなります。
■利用者の声
月曜日の午後2時を少し過ぎた頃、下高柳の中村動物病院駐車場に移動スーパーがやってきます。スピーカーが到着を知らせる音楽を響かせると、徒歩や自転車で近所の方が買い物に集まってきます。
この日訪れたのは、なじみの3人。みんな移動スーパーが始まったときからの常連です。移動スーパーが始まるまでは、電動自転車で少し離れたスーパーに行ったり、休日に子どもと一緒に買い物に出かけたりしていました。
移動スーパーが来るようになって、近所で買い物ができるようになり「とても便利になった」そうです。「買い物したものを自転車のかごに入れてくれる」「風でお札を飛ばされたときに走って拾ってくれた」など、感謝の言葉がつきません。
「従業員さんが親切で優しい。それが一番嬉しい」と声をそろえます。
■極めて地域密着型の移動スーパーです
まるたけ騎西店店長 江尻庸平(ようへい)さん
騎西地域の地域ブロンズ会議の前身となる組織に参加していて、買い物の支援が必要という話になり、令和4年3月から移動スーパーを行うことになりました。会社としても初めてのことで、自治会長さんや民生委員さんなどの協力をいただきながら仕組みを考えていきました。移動スーパーは、朝に商品を積んで、午前の販売を終えた昼頃に休憩をとり商品を補充して、午後の販売に向かうので、時間との勝負でもあり、手間と時間がかかります。初めのうちは赤字でしたが、ようやく赤字にならない程度になりました。
弊社が展開する地域では、各販売場所に地域ブロンズ会議の皆さんが立ち会ったり、地区によっては役員さんが移動販売車と一緒に販売場所を回ってくれています。ここまで地域に根差した移動スーパーは、全国的にもまれではないでしょうか。販売場所近くの集会所を、トイレや休憩場所として開放したり、夏は大型の扇風機、冬はストーブを用意してくれたりと、充実のサポートです。
移動スーパーでは、必ず2人で販売に向かいます。荷物をかごに運ぶお手伝いをしたり、お話ししたりと1人ではできないこともありますので。店舗では難しいサポートも、大切にしています。
地域の協力があって成り立っていて、我々だけではここまで役に立ててはいなかったと感じています。これからも地域と一緒に進んでいきたいですね。移動スーパーをきっかけに外に出て、おしゃべりをして楽しい時間を過ごしていただき、できれば買い物もお願いします。
■なじみの地域で買う楽しみ、話す楽しみ
樋遣川きずな・結いの会会長(樋遣川地区ブロンズ会議)
樋遣川きずな・結いの会が発足した令和元年、民生委員さんに高齢の単身世帯や高齢者だけの世帯の訪問アンケートを行っていただきました。草取りや掃除、外出などいろいろと困り事がありましたが、特に「買い物」という声が多くありました。樋遣川地区では、コンビニを除くと商店は1店しかありませんから。
デマンド型乗合タクシーやちょこっとおたすけ絆サポート事業、生協や家族のサポートなどの手段もありますが、「移動スーパーに来てもらえればいいのでは」となり、令和4年11月に樋遣川地区でも移動スーパーが始まりました。私たちは地域を知る立場として、販売場所を選んだり、地域の人にお知らせしたりしました。
移動スーパーは、自宅近くに来てくれるので、歩いて行けるし、自分で選んで買える楽しみがあります。買い物を助けるいろいろな手段があって、困っている方が自分で選択できるということが大切だと思っています。
交流の場となっていることも良いところですね。週に1回来る移動スーパーに顔なじみが集まって、ひとしきり話して帰る。昔は地域の交流の場となっていた地元の商店が、ほとんどなくなってしまいました。移動スーパーは、その役割も担っています。外に出て人と話すことは、元気に生きていく上でも大切ですね。
特に高齢化が進んでいる樋遣川地区を「みんなで高齢者を見守り、支え合っていく地域」にしたい。そのための一つの手段が移動スーパーです。
誰もが歳をとっていきます。いずれは我が身だと思って、取り組んでいます。
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