■次の時代を担う茶師たちの挑戦
狭山茶を未来へ継承していくため、若手の茶師たちも日々挑戦を続けています。彼らが茶業に取り組む上で持っているこだわりとは、どんなことなのでしょうか?また、アサヒユウアス(株)と共同で作った、商品価値の低いケバ茶(*)を活用したクラフトビール「狭山GREEN」。この事業に携わる中で感じた、狭山茶を使用した環境への取り組みに対する思いや、狭山茶の未来の展望などを語っていただきました。
(*)製茶の際に取り除かれる茎の皮を使ったもの
横田貴弘さん -(有)東阜横田園-
目指す姿を一言で表現するなら「狭山茶らしさ」。お茶は生産地によって根付いている品種が異なるため、この武蔵野の台地で育ってきた茶の木たちが持つ力強さを大事にするお茶を作り続けたいと思っている。他の大規模生産地のものに右へ倣えで作るのではなく、地域の人たちと協力しながら、この土地ならではのものを作っていきたい。
奥富雅浩さん -奥富園-
品評会へ出品する伝統的なお茶作りをベースとして持ちつつ、どんどん自分なりにアレンジを加えて技術を革新させ、良いお茶を作ることを目指す。また、お茶の新しい飲み方、見せ方も開拓している。今ではワイングラスを使ってお茶の香りを感じやすくする飲み方や、高級なスイーツとお茶のペアリングなどを提案する事例も増えているため、自分自身も楽しみながら新しい取り組みにチャレンジしていきたい。
石田陽一朗さん -狭山火入れ伝説(R)本舗 (有)石田園-
仕上加工専門問屋だからこそできる仕入れと仕上げにこだわりを持つ。生産者たちが自信を持って作ったお茶を、仕入れる立場としてできる限り高く買い、最高の状態でお客様に届けることを目指す。生産者も問屋も互いに良好な関係を築きつつ、仲間として一緒に狭山茶を盛り上げていきたい。
▼CROSS×TALK
若手茶師たちが語るこれからのこと
次の時代を担う茶師たちの挑戦
◇ビール好きの茶師3人、事業へ乗り出した理由は
(横田)最初はビール製造の担当の方から私のところに連絡を頂いたんです。持続可能な社会を実現させるためのアップサイクルという理念のもと、破棄したり、価値が低いといわれたりしている材料からビールを作りたいという内容でした。事業を一緒にやる仲間を探す上で思い浮かんだのが、ビールに対しても見識が深い奥富さん、茶商を営み、原料となるケバ茶を大量に用意することができる石田さんでした。
(奥富)ビールを作るのは面白そうだなと思い、二つ返事でOKしました。普段からよく飲むIPA(*)はフルーティーな香りがするものもあり、これはお茶にも通じるところがあると思っていたんです。クラフトビールのようにお茶にも多くの種類があっていろいろな楽しみ方ができる、でもそれを知らない人が多い。自分たちがビールを作ることでお茶のそういった側面をPRできるし、ビールとお茶を掛け合わせたものを作れるということが純粋に楽しみでもありました。
(*)原料のホップを多く使用し、香りや苦みが強いことが特長のビール
(石田)私も横田さんから話をもらった時に「やる!」と即答しました。狭山茶の魅力って、生産者の人たちが味や香りをとことん追求して作り上げる「クラフトマンシップ」だと思っていて、そういった部分が普段から品評会などでも高い評価を受けています。クラフトビール作りもこれと似たような部分があると感じていました。
(横田)我々3人みんなビールが大好きですしね。あと「これからの狭山茶を背負っていく世代」ということで先輩方からも期待していただいているので、何か新しいことに取り組みたいという気持ちもありましたね。
◇みんな気付いていない「お茶=SDGs」
(奥富)実はビールとお茶は一般的にあまり相性が良くないといわれているんです。今回はそれに加えてアップサイクルというコンセプトがあるので、材料として「普段あまり使わないもの」という制約があり、商品化へのハードルは高いと感じていました。
(石田)確かにこういったコラボレーションの話はうまくいかないケースも結構多いですよね。ただ今回はいろいろな要素がうまくハマって商品化までたどり着けました。お茶をアップサイクルすることは、日本でSDGsという概念が一般化する前から茶業者は普通に行ってきたことだったから実現したのだと思います。例えば、お茶を入れるときに出る茶殻を栄養価の高い肥料として畑にまいているとかね。
(奥富)そうそう、お茶ってそもそも捨てるところがない。茶業者はそれを昔から当たり前のように考えているんです。でも、それがSDGsにつながると気付いていないんじゃないかな。例えば茎茶や粉茶も、商品を作る上で副次的に発生するものに、さらに手をかけて商品として価値を生みだしている。それがアップサイクルとして環境に貢献しているということに、茶業者と消費者が気付くきっかけになったのが今回の事業の一つの意味なのかなと思います。
(横田)この事業を機に狭山市とアサヒグループジャパン(株)が連携協定を結んだことで、大きな規模の取り組みになりましたね。我々事業者だけでなく、行政も一体となって未来へつながる持続可能な地域づくりを実現していけるんじゃないでしょうか。
◇茶師が考える、叶えたいこれからの未来
(奥富)やりたいことは他にもたくさんあります。狭山市は落ち着いた茶畑の風景がありつつ、銘茶の生産地としては都心からとても近い。つまり観光地としての可能性を秘めていると思うんです。都心から来て、ゆっくりお茶を飲む時間を提供できるような日本茶カフェなどをプロデュースできたら面白いかなと考えています。
(横田)私が考えているのは事業の後継者育成ですね。狭山工業高校の紅茶作りにも関わらせてもらっていますが、後継者不足が叫ばれる現代においては別に血縁者ではなくても、学生の中からでもお茶の生産に興味を持つ生徒が出てきてくれたらいいなと思います。そうすればこれから先も狭山茶を質の高いものとして作り続けていけるんじゃないかな。
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