■寝言が気になる
埼玉県立大学保健医療福祉学部共通教育科 教授 金野倫子(こんのみちこ)
身近な人の突拍子もない寝言にあぜんとした経験がある人は、少なくないかと思います。
睡眠中の発話である寝言は、つぶやくような小声で意味が分からないものから、内容がはっきりした大声の発言や、会話のような間が見られるものなどさまざまあり、平板なものから怒りや驚きがあらわなものまで、そのトーンも多彩です。夢見が多いレム睡眠中だけでなく、ノンレム睡眠中にも出現することが確認されていますが、文法の崩れが少なく感情の動きが感じられるタイプは、レム睡眠に多いようです。
睡眠障害国際分類第3版では寝言の生涯有病率は66%とされ、子どもに多く、明確な性差は認められないとなっています。双生児を対象とした調査からは、一部のケースにおける遺伝の関与が示唆されています。
寝言そのものの病的意義は比較的小さく、子どもであれば見守りつつ自然消退を待つ、ということでよいようですが、寝言以外の睡眠の問題がないかは確認しておく必要があります。
注意すべきは、大きな寝言が成人、特に中年以降に繰り返し現れるようになった場合です。例えば、レム睡眠中に通常であれば作動する骨格筋活動の抑制が不十分となり、夢内容と関連して手を振り回す、殴る、蹴るなどの行動が出現し、本人やベッドパートナーがけがをすることもあるレム睡眠行動障害は、レビー小体型認知症の前駆症状として認知症発症の何年も前から現れることが知られるようになってきましたが、行動ではなく明瞭な寝言という形で出現するケースも見られます。このように寝言が疾患の徴候となる場合があるからです。また、服用中の薬剤や日中の心理的負荷などが関係する例もあります。
なお、深く息を吸ったあとに呼気の延長を伴って出現する、うなるような発声が寝言に聞こえることもありますが、これはカタスレニアと呼ばれ区別されています。
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