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往還するシュルレアリスト 飯能とニューヨークに生きた早瀬龍江

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埼玉県飯能市

この不思議な絵画(本紙またはPDF版参照)の作者をご存知でしょうか。飯能にアトリエのあった早瀬龍江(はやせたつえ)(1905-1991年)の作品です。北海道奥尻島(おくしりとう)に生まれた早瀬は、高校卒業とともに上京し、画塾や絵画研究所で油彩を学びながら、1940年から始まった美術文化展を中心に作品を発表しました。早瀬は画家・福沢一郎(ふくざわいちろう)のもとでシュルレアリスムの手法を研究し、身の回りにある日常的なモチーフを、現実には起こり得ない状況や組み合わせで次々と描き出します。この頃、福沢が治安維持法の嫌疑で拘束され、早瀬は同窓の画家と一日おきに差し入れを行います。この画家が、後に結婚する白木正一(しらきしょういち)でした。二人が飯能に移り住んだのは1943年です。戦後は、白木が中心となって設立した「白木美術研究所」や、経験を問わず参加できる「武蔵野らくがき会」などの活動にも関わり、飯能の文化芸術振興に携わっていきました。
精力的に活動を続ける一方、よりよい制作環境を求め、1958年に夫婦でニューヨークへ渡ります。二人は同地でアトリエを借り、早瀬は大型の彫刻や陶器などへ制作の幅を広げながら、飯能美術展などにも出品していたようです。1986年には、ブラックライトを当てると異なる図像が現れる「二元絵画」を個展で発表しました。残された作品からは、日常を起点に目に見えない世界を探り、晩年にかけても途切れぬ創作の意欲を持ち続けた作家であったことがうかがえます。現在、作品の一部は所縁ある飯能の市立博物館に収蔵されています。
また、早瀬の作品と関連資料が、埼玉県立近代美術館で開催中の「イン・ビトウィーン」展に展示されています。同展では、版画や水墨によるドローイングを制作した林芳史(はやしよしふみ)、日常の断片を日記のように記録し続けたリトアニア出身の映像作家ジョナス・メカス、自己と他者や共同体との関係性を問いかける作品を制作する潘逸舟(はんいしゅう)も紹介しています。多様な境界線の間に立ち、思索を深める作家たちの視点は、さまざまな困難を生きる現代の私たちにとっても示唆に富んだものとなるでしょう。

問い合わせ:博物館
【電話】972-1414

■「イン・ビトウィーン」展
開催期間:令和6年1月28日(日)まで
※休館日 月曜日(1月8日を除く)、12月25日〜1月3日(水)
観覧:一般1000円、大高生800円
会場:埼玉県立近代美術館(埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1)

問い合わせ:埼玉県立近代美術館
【電話】048-824-0111【HP】https://pref.spec.ed.jp/momas/

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