『とっくり蛇』
文化財調査員 後藤浩二
そう遠くない昔、ある女が山仕事のため道を急いでいた。
30分ほど歩いた頃ふと脇道に目をやると、なにやらビール瓶くらいの何かが転がっている、良い物だといいと思い、近づくと、いきなり鎌首を持ち上げて“ひをふいた”そうな、(威嚇)
「とっくり蛇じゃ!」女は、悲鳴を上げて逃げ出した。
もうお気付きの方もいると思うが、“とっくり蛇”とは世間一般でいう“ツチノコ”の事である。九重町では古くから“とっくり蛇”と呼ばれ恐れられていた。
目撃談も多く、ある者は転がって追いかけられたという。
一般的なツチノコの特徴は、頭が三角で太い胴体があり、尺取虫のように動き、転がり追いかけるという。
70年代初頭、小説『すべってころんで』同作NHKドラマなどで、ツチノコブームが始まった。
この頃から全国的に目撃者が増え、ある自治体では2千万の懸賞金がつけられた。現在でも10万~1億の懸賞金が各方面からついている。
しかし、ツチノコはこの頃突然わいてきたわけではない。ちなみに私が初めてツチノコを本で見知ったのは、小学校の時に見た『日本妖怪図鑑』だった。
調べると、古くは縄文時代の土器の壺の縁に描かれていたり、ツチノコに酷似する蛇型の石器があったりするという。
文献に現れたのは『古事記、日本書紀』が最初で、カヤノヒメの別名であり野の神、主と書かれてあるらしい。
1712年寺島良安が記した『和漢三才図会』に。
1799年『聖城怪談録』
1886年『信濃奇勝録』と記録は多い。
では、ツチノコの正体は何であろうか。昔から伝承されてきた生物だが、捕獲された記録もあいまいである。
私の知り合いがくじゅうで、太い蛇を見た。「ツチノコか!」と、思ったそうである。しかしその人は冷静に「あれはマムシだった。」と語った。
ひょっとするとただの蛇だったのではないだろうか。その時の恐怖を伝えるうちに、伝言ゲームのように尾ひれがついて、今の姿になったのかもしれない。
私としては未発見の生物であってほしいと願っている。
ツチノコのほかにも大蛇など、蛇にかかわる伝承、遭遇体験は、九重町にある。また機会があったら紹介したいと思う。
【毎年1月26日は、「文化財防火デー」です】
<この記事についてアンケートにご協力ください。>