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ふるさとの文化財探訪 第125回

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大分県九重町

『生きた化石・イチョウ』

文化財調査委員 阿部秀幸

九重町の文化財として「川下の乳イチョウ」、「富迫の大イチョウ」の2本のイチョウが指定されています。黄葉の美しさ、特徴的な葉の形、食用になる種子(ギンナン)などの特徴から、多くの人にとって身近な樹木の一つとして認識されているのではないでしょうか。ただこのイチョウ、実は世界的には絶滅が危惧されている樹木だったりします。
街路樹などでもよく見かけるイチョウが絶滅危惧種だなどというと、にわかに信じがたいかと思いますが、この絶滅が危惧されているイチョウというのは野生のイチョウのことです。現在、野生のイチョウは中国の安徽省、浙江省にわずかに現存するのみだと言われています。
イチョウは現存する樹木の中では世界最古の種の一つとして数えられています。ペルム紀(約2億9900万年前~約2億5190万年前)に誕生し、中生代(約2億5190万年前~約6600万年前)には世界的に繁茂しましたが、新生代(約6600万年前~現代)に入るとともに訪れた寒冷化とともに姿を消していったといわれています。日本においても約100万年前に絶滅したようで、現在日本で見られるイチョウは中世(年代としては諸説あり)に中国からもたらさされものの子孫と思われます。
イチョウは分類学上、イチョウ綱、イチョウ目、イチョウ科、イチョウ属に属する唯一の現生種とされています。つまり、現在のイチョウは同族がいない孤高の存在なのです。ペルム紀という太古(シーラカンスと同じ時代)から他の仲間が絶滅する中でも命をつなぎ、ただ1種のみ生き残ったことから、シーラカンスやカブトガニなどと同様に生きた化石と言われることもあります。
このように、もはや存在していること自体が貴重なイチョウのなかでも立派な巨木に成長した2本が九重町では文化財に指定されています。イチョウは日本の野山に自生することはありませんが、人に愛され、人の手で植えられ、育まれてきた樹木です。「川下の乳イチョウ」、「富迫の大イチョウ」の2本は我々九重町民に特に親しまれた樹木と言えるでしょう。身近な普通種のように感じられながらも実は貴重な樹木であるイチョウ。見せ場の一つでもある黄葉の時期も近づいています。これを機に近くのイチョウたちを見直してみてはいかがでしょうか。

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