『教科書はどうして無償なの?』
新学年がスタートする4月。教室には、配られた新しい教科書を手にして目を輝かせる子どもたちの姿があります。「今年はどんな勉強をするのかな?」「なんだか難しそうだな。」「明日からの授業が楽しみだな。」興味津々に教科書を開く子どもたちの姿が今では当たり前の光景です。しかし、この当たり前の姿の背景には、『教科書無償運動』の歴史があることをみなさんはご存じでしょうか。
全国のすべての小中学校で使われる教科書が無償になったのは、1969年4月からのことです。それまで、教科書はお金を出して購入する必要がありました。日本国憲法第26条2項の中に、「義務教育は、これを無償とする」という条文がありますが、教科書に関しては無償の対象ではありませんでした。学校での学びを支える教科書が有償となると、義務教育の平等が実現できません。
そのおかしさに声を上げたのが、高知県長浜の被差別部落の方々でした。長浜地区では、自分たちの生活や仕事、教育をよくするための学習会で憲法について学習をしました。そのなかで、憲法26条を知り、1961年「長浜地区小中学校教科書をタダにする会」を結成しました。すぐに、学校の先生や保護者、母親グループなど、地区外の人たちも仲間となって教科書無償の運動を展開したのです。具体的には、陳情や請願だけではなく、「憲法を守るために教科書を買わない」という運動に取り組みました。その後、国や自治体に「憲法を守らせる権利要求のたたかい」の考え方は、全国へと広がりました。長浜から始まった運動は、ついに国を動かし、法律の制定によって、「すべての児童・生徒に教科書を無償で配布する」ことが実現しました。教科書の無償配布は、1963年4月入学の小学1年生に始まり、順次その対象が拡大され、1969年4月にはすべての小中学生の教科書が無償となりました。同和対策審議会答申が出される前に、憲法を根拠に立ち上がった高知県長浜の『教科書無償運動』は、すべての人々の権利を守り、より暮らしやすい社会の実現につながっています。
今年もあと半月で新学年のスタート。新しい教科書を手にし、ワクワクとドキドキいっぱいの子どもたちの姿が目に浮かびます。運動に携わった人々の思いがつまった教科書で、今日も九重の子どもたちはたくさんのことを学んでいます。
教育振興課
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