■「心肺蘇生法」
循環器科内科・副院長 上運天 均(かみうんてん ひとし)
みなさんの目の前で突然、人が倒れたらどうしますか? まず119番通報、心停止であれば次に胸骨圧迫(心臓マッサージ)、そしてAEDによる電気ショックです。自分自身による判断に迷う場合は、救急指令の指示に従って心停止かどうかを判断してください。このとき、携帯電話をハンズフリーモードにすると(あらかじめ練習しておくとよいです)、救急指令と通話しながら両手を自由にして心肺蘇生にあたることができます。心停止と判断した後、救急隊の到着を待って胸骨圧迫を開始したのでは7%の人の命しか救えません。しかし、すぐに胸骨圧迫をすることで2倍近く、さらにAEDを用いた電気ショックが行われることで、突然の心停止の約半数の人を救うことができます。これは、そばにいあわせた人(バイスタンダー)がすぐに実施するからこそ得られる効果であり、救急隊や、病院到着後に医師や看護師が行う処置と比べて、はるかに大きい効果を持ちます。
杵築市内でも各小中学校や公民館を中心にAEDを設置しています。市のホームページに掲載していますのでぜひご確認してみてください。ちなみに杵築市ではAEDの貸し出しも行っており、イベントを開催する際などに活用することができます。
とはいえ、いきなり本番ではどうしても手がすくんでしまいます。実際、心停止におけるAEDの使用率がたった4%に過ぎないというデータもあります。とつぜん訪れる本番に備えて、消防などが主催する地域のBLS講習をぜひ受講してみてください。救急通報、心停止の判断、安全確認、胸骨圧迫、AEDなどについて学ぶことができます。講習自体は堅苦しいものではなく、楽しく学べて終了後にはみなさん晴れやかな笑顔を見せてくれます。
わたしはこれまで、60回以上の心肺蘇生法コース(日本救急医学会認定ICLSコースと日本内科学会認定JMECC)を大分県立病院、大分大学、豊後大野市民病院などで開催し、病院内で予期せぬ心停止に陥った患者さんを救うべく職員の教育に努めてきました。当院でもコロナによる中断がありましたが、この2年で5回の心肺蘇生法コースを開催しています。当院には学会認定コースを開催できるディレクター(わたし)と複数の認定インストラクターが在籍し、さらにシミュレーター(蘇生訓練用人形やAEDトレイナーナなど)もワンセット完備しており、このような心肺蘇生法コースを自前開催できる東部医療圏では数少ない施設のひとつとなっています。
医療従事者にとって心肺蘇生法は江戸時代の武士の刀や剣術のようなものだと思っています。ふだんやたらと使うものではありませんが、鍛錬や手入れを怠らず、突然やってくる〝いざというとき〟に100%の力を発揮できるように日々備える。そのようなお侍さんは、ふだんの立ち姿歩き姿にすらオーラが漂い言葉のひと言ひと言に重みがあるでしょう。杵築市立山香病院の職員もそのような姿勢で心肺蘇生法の習得に励んでいます。
もちろん、予期せぬ心停止に陥らないことが重要です。われわれ医療者は急変を予知してあらかじめ必要な治療を行うことが重要ですし、患者さんは生活習慣病などの予防に努め、病気になった場合は早期に受診することが重要です。それでも予期せぬ心停止に陥った場合は、杵築市立山香病院では現代の標準的な心肺蘇生法を提供することが可能です。
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