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【特集】緒方川と緒方盆地の農村景観

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大分県豊後大野市

令和5年3月20日、「緒方川と緒方盆地の農村景観」が国の重要文化的景観に選定されました。
今月号では、水路網とともに発展してきた緒方盆地周辺地域の農村風景の変遷と風土に根ざした暮らしや文化を紹介します。

■「緒方川と緒方盆地の農村景観」の本質的特徴
緒方盆地は、緒方川の侵食によって3段の広い河岸段丘(階段状の土地)が形成されています。緒方盆地の河岸段丘は、古くから井路、水路が整備され、水田開発が行われ、盆地内には広大な水田が、丘陵地帯には棚田が広がりました。緒方盆地周辺の水田や棚田の風景は、人々の生活や生業(なりわい)の経過が分かる景観となっており、時代ごとの技術を用いて井路を開削し、溶結凝灰岩の特徴を活用して、磨崖仏、石風呂、石橋などを造り、文化や信仰を育んできたことを伝える場所がいたるところに残されています。
阿蘇火山の噴火によって形成された火砕流の大地と豊富な水資源を巧みに利用して形成されてきたこの景観は、地域の水と石の文化を表す大切な文化的景観です。

◆01 緒方盆地の景観
できるだけ高い位置に水を引き河岸段丘いっぱいに水田を広げようとしてきた人々の営みが奥行きのある眺めをつくりあげてきました。

◆02 軸丸棚田の景観
軸丸地区の棚田は、古くから軸丸川を利用した水田「古田(こた)」と大正以降に整備された富士緒井路を利用した「新田(しんた)」の織りなす景観が大きな特徴です。

◆03 原尻の滝周辺の眺め
原尻の滝で行われる緒方三社川越し祭りは、滝上から取水する井路に感謝し五穀豊穣を祝う祭りとも言われています。井路の堰堤(えんてい)や、川中にある大きな鳥居は、緒方川の地形と水を利用し農業を営む人々が形づくった景観です。

◇緒方「平野」?「盆地」?
緒方川に沿って形成された平地は、地元では「緒方平野」と呼ばれ親しまれてきました。実際には、丘陵で囲まれた盆地であることから文化的景観では「緒方盆地」と呼びます。

■文化的景観 人々の暮らし
文化的景観は、そこに暮らす人々による歴史的蓄積の上に成り立ち、美しい景観の背景には、それらを維持してきた伝統的な生業(なりわい)や暮らしが存在しています。

◆01 井路
各地をめぐる井路は、農業用水だけでなく、農機具を洗う水や防火用水としても活用されています。
原尻の滝よりも下流部は、水面が土地よりも大きく下がっているため、緒方盆地に水を引き稲作を行うためには、原尻の滝よりも上流に取水口を設けなければなりませんでした。このような自然条件が緒方盆地に井路と呼ばれる長いかんがい用水路を発達させる要因の一つとなっています。江戸時代、井路開発が進んだ緒方盆地は、岡藩屈指の稲作地帯となり、明治時代以降には、近代化が進み、土木技術の発達により、長距離井路が引かれ、標高が高い場所に棚田が形成されました。

・農機具を洗ったり今でも利用されている井路の水汲み場
・井路を維持管理するため地域の人々は協力しあって井路を管理している

◆02 民俗芸能や行事
緒方盆地周辺では、さまざまな行事が継承されています。五穀豊穣を願い、お盆にはコダイ(小松明)、9月には五千石祭で神楽・獅子舞などを奉納。11月には井路に感謝する祭礼緒方三社川越し祭り。また、昔ながらの農作業風景は、農業を生業とした後藤絹さんにより紙粘土で再現され、当時の暮らしをいきいきと映し出しています。

◆03 石造建造物
平安時代末期に、この地を支配していた緒方氏は井路開発のみならず、磨崖仏建立や緒方三社(一宮、二宮、三宮八幡社)建立を行ったなどの歴史が今に伝えられています。
近代化が進み、大正11(1922)年に豊肥線緒方駅が開業したことで、近隣の村々にはアーチ式石橋が次々と建造されました。駅の近くは物資集散の地となり、緒方町域の中心街として発達していきました。

■文化的景観に選定されて
◇この景観を皆さんに知ってもらいまた来たくなる場所に
この文化的景観の取り組みは、日本ジオパーク認定に向けた現地審査の中で、「緒方町域の井路群は地形・地質を理解した先人が、長年の開発により築き上げたものであり、詳細な調査研究を進め、その価値を広く市民に還元すべきだ」という審査員の助言がきっかけとなりました。平成27年度から調査研究を重ね、緒方川周辺で見ることができる景観は非常に価値が高いと認められた結果、令和5年3月に国の重要文化的景観として選定されました。
普段何気なく見ている緒方川周辺に広がる水田や棚田、丘陵地際の家並みといった景観は、実は一朝一夕にできたものではなく、阿蘇火山の巨大噴火の影響を受けた自然や、人々が住み始めてから今日に至るまでに築いてきた歴史や文化が作り上げたものです。しかも、その経過そのものが今なお残されているといった部分に特徴があります。文化的景観は「氷山の一角」と例えることもでき、目の前に広がる景観の目に見えない背景を知ることで、より景観の価値を感じ取ることができます。
「緒方川と緒方盆地の農村景観」は、これまでも生活や生業を通して変化してきました。これからも変化していくものと考えますが、先人から連綿と受け継がれてきた本景観の特徴は次世代に受け継いでいかなければなりません。同時に今回の選定を契機に、多くの方々に知ってもらい、また見たくなる、また来たくなる場所になるよう取り組みを進めていきます。
資料館職員 後藤祥

■エンブレムが完成
「緒方川と緒方盆地の農村景観」の特徴を表したエンブレムを作成しました。デザインは緒方中学校の生徒が美術の時間を使って考案したものから選ばれたものです。今後、作成・設置予定の案内板やパンフレットに使用していきます。また、使用に関しては申請等必要なく、自由に使うことができます。ぜひご活用ください。

◇デザインコンセプト
「緒方川と緒方盆地の農村景観」の特徴でもある約9万年の時をかけて形づくられた原尻の滝と、盆地底に広がる平地に、緒方川から引水し開削した井路(水路)によって開かれた水田で実る稲穂を描きました。

「大人になっても自分の書いた絵だと自慢できます」
作成した工藤穣さん(緒方中3年)

■企画展 絶賛公開中!「自然と歴史が紡いだ景観」
市報では文化的景観の魅力を全て紹介しきれません。3月31日まで、資料館ジオパークミュージアムで選定を記念した企画展を開催中ですので、ぜひお越しください。
開催期間:3月31日まで(観覧無料)
「初公開の資料もあります」

開館時間:9時~17時
休館日:月曜・祝日

問い合わせ先:豊後大野市資料館ジオパークミュージアム(市図書館隣)
【電話】0974-24-0040

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