豊後高田市の特産品の1つ「豊後高田そば」。
年2回作付けし、新そばの時期には、市内外から多くの方が豊後高田そば認定店に列を作り、舌鼓を打つ姿が風物詩となっている。
しかし、一昔前までは「そば」を栽培するノウハウもなければ、「手打ちそば」を味わうお店もなく、そばを楽しむ文化はなかった。
今回の特集は、ゼロから始まり、今では西日本有数のそば産地となり、そば処ともいわれるまでになった「豊後高田そば」の二十二年の軌跡をたどる。
はじめに、そばの生産と販売管理などを行う豊後高田そば生産組合代表の末宗政信さんと、同組合の前代表で、現豊後高田そば株式会社代表取締役社長の中野幸輔さんに、これまでの苦労と未来に向けた抱負などについて取材した。
■そば栽培を始めたきっかけは?
(中野さん)
以前、転作作物として、大豆の栽培をしていましたが、収穫が悪かったので、大豆に代わる作物はないかと探していました。
その中で、そばなら豊後高田の昭和の町にマッチするということで、そばがいいとの話になり、そばの栽培を行うことになりました。
平成14年に試作を行い、平成15年から本格的にそばの栽培に入りました。(そば生産組合に入る)条件ですけど、1ha以上の田んぼや畑でそばを作るということで、そのとき17の営農組織で始めて、現在そばの栽培に携わっています。
■大変な苦労あったのでは?
(末宗さん)
そばは、どこでもできるような作物なので、豊後高田に取り入れて、連作もできると思っていました。
しかし、やってみると、平成20年頃から連作障害(※)が発生し、収量があまり増えなくなりました。
そのため、ナタネやハトムギ等を取り入れて、連作障害の防止に努めたんですが、やはり気象条件が厳しい中で生産量が伸び悩み、取引面でも、3・4年前からの新型コロナの影響で安定的な取引ができなくなる事態が起きたりと、未だに生産量など苦労が絶えないところです。
※連作障害…特定の作物を同じ場所で栽培し続けると生育不良や収量減少などが起こる現象
■そばは秋の収穫が一般的な中、春と秋の年2回収穫し、特に春そばは有名と聞いていますが?
(中野さん)
秋そばは、各地で作られていますが、豊後高田では全国的にも珍しい春そばに力を入れています。
熊本から来ていただいている手塚隆久先生(元九州沖縄農業研究センター研究員)や行政の皆さんの指導により、「春のいぶき」の栽培に取り組んでいます。
■豊後高田そば認定店は、どうやってできたのですか?
(中野さん)
そば栽培だけでなく、地元で栽培したそばを食べられるお店を作ろうということが始まりです。
平成17年にそば打ち職人養成講座を開始し、平成22年からは全国的に有名で、そば打ちの神様とも言われる「高橋邦弘名人」にご縁がありまして、そば打ちの指導をしていただきました。
2期にわたるそば打ち職人養成講座を実施したことで、今では豊後高田そばの認定店が12店舗になり、春の新そば、秋の新そばともに、解禁日には多くのお客様が認定店にお越しいただいています。
■そば打ちも人気ですよね?
(末宗さん)
豊後高田流そば打ち技術の確立のため、平成25年7月には、広島県在住であった高橋名人に師範になっていただき、そば道場を開設。誰でも気軽にそば打ち体験ができる環境を作りました。
平成24年からスタートした「豊後高田流そば打ち段位認定会」では、今年5月の時点で253名の方が段位を取得しています。
また、教育の一環として、子どもたちがそば打ちに取り組める機会作りをはじめました。平成29年に高田高校そば打ちチームが誕生し、小中学生対象の親子そば打ち段位育成事業を実施しました。令和2年には、学びの21世紀塾わくわく体験活動のそば打ち教室、令和5年には、高田中学校そば打ちサークルが誕生し、小・中・高校とそば打ちが繋がる環境を作りました。
■子どもたちへも、そば打ちが継承されていて、楽しみですね?
(中野さん)
今、学びの21世紀塾で13名の小学生が体験し、中学生が3名、高田高校のそば打ちチームが19名います。
高校のそば打ちチームは、今年も「そば打ち甲子園(全国高校生そば打ち選手権大会)」に出場します。
年代は違いますが、みんな負けん気があって、そば打ちをしている姿を見ると、本当に熱心さが伝わってきます。
■未来に向けた抱負は?
(末宗さん)
生産組合は、17集落の組織で構成しており、市内各地で栽培に取り組んでいます。
自然の影響を受ける農業の中でも、そばは気候、災害、環境の影響を受けやすい作物です。
収穫量の向上や土づくり、病害虫対策など課題が多くありますが、今が踏ん張りどきで、手塚先生等の指導者にも支えられながら、手を尽くすことが肝心だと思っています。
これからも、市内の認定店、取引先、何よりも消費者の期待と応援に応えていきたいです。
市からも、生産対策の支援やふるさと納税制度でバックアップしていただいていますので、高齢化や担い手不足もありますが、次の世代に、そば作りをしっかりと産業として成立させること、また儲かる農業を実践していくことがこれからの使命だと思っています。
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