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市史だより Vol.298

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大阪府和泉市

■「国府」につける読み仮名は?変わりゆく言葉・発音
古文書の読解は文字の形も重要ですが、声に出してどのように読んでいたのかも重要な手がかりです。当時の人びとの発音は、現代の私たちと違う場合がしばしばありました。
市では、今年度も古文書講座を行います(本紙15ページ別掲)。
和泉市域の灌漑(かんがい)を支えた用水の一つに、国府河頭井(こうこうずい)があります。阪本町と観音寺町の境目にある槙尾川に堰(せき)を設け、右岸の井路(いじ)へ引き入れ、芦部町、一条院町を抜け、黒鳥町や府中町の田地を灌漑する用水です。余った水は、伯太町や池上町、泉大津市域にも供給され、長い間、和泉平野の生活を支えてきました。
この用水が設けられた時期がわかる資料はありませんが、府中町の灌漑を支えたこと、および「国府河頭井」という表記から、古代の和泉国府(こくふ)に由来するという説があります。碁盤の目状に区画された条里地割(じょうりじわり)の残る平野部を灌漑しており、中央権力や国府の影響により開発されたという説です。
ところで、国府河頭という漢字に、「こうこうず」と読み仮名を付けましたが、もともとの発音は少し違ったかもしれません。
「国府」を「こう」「こふ」と読む事例は、日本の各所にあります。この「コウ」と読む言葉は、江戸時代以前の仮名遣いでは、「かう」「かふ」「こう」「こふ」「くゎう」と様ざまに書き分けられていました。しかし明治時代以降、政府は仮名遣(かなづか)いを整理し、国語教育を通じて統一を図りました。たとえば、「言ひ」を「言い」に、「言ふ」が「言う」に、「ゐ」や「ゑ」は「い」「え」になりました。「春は曙」に続くのは、「ようよう」になりました。
さて、問題の「国府河頭」の表記ですが、今まで見つかった資料では、江戸時代の古文書に記された例が最も古く、仮名では「かうかうす」あるいは「かふかふす」と記されています。しかし「こうこうず」と記された古文書は見つかっていません。漢字で「国府河頭」と表記されるようになるのは18世紀末のことです。
古文書では濁点を省くことが多く、「す」の文字を「ず」と読んでいた可能性は高いでしょう。とはいえ、清音の「す」を漢字で書く場合は、「須」を用いていました。
また、発音が同じであれば、別の漢字や仮名を用いることもありました。たとえ個人名であっても、発音が同じであれば別の漢字を用いることもありました。
これらを踏まえると、この用水の名称については、「かうかうず」という発音がまずあり、18世紀末になって「国府河頭」という漢字が充てられた、と考えられそうです。
現代仮名遣いを用いる広報では「こうこうず」と表記しましたが、当時の人びとの発音により近い読み方は「かうかうず」だったのではないでしょうか。国語教育によって、当時の仮名遣いは古典の分野へと整理され、方言とともに、江戸時代までの発音の多くが失われました。古文書は、当時の人びとが発した肉声に近づける、数少ない重要な手がかりです。

問合せ:市史編さん室
【電話】44・9221

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