「正しくあることとは」
大阪教育大学 薮田 直子
大学で1年生の大人数講義を担当しています。私の勤務校は教育大学なので、多くの学生がすでに入学時点で教職をめざしています。授業の内容はダイバーシティ(多様性)の尊重と人権教育。「担任するクラスに性的マイノリティの子どもがいたら?」、「現代日本の差別問題や人権状況は?」など重く深い内容で、かつ現代的で複雑なものばかりです。学生たちの様子を見ていると「間違えたくない」、「人とぶつかりたくない(傷つけたくない)」という意識が大変強いように見受けられます。もちろん、将来教育に関わる学生も多いので、間違いだらけではいけません。でも、いわゆる真面目な学生ほど間違えることへの不安が大きいようで、そこまでプレッシャーに感じなくてもよいのではと心配してしまうケースもあります。
多様な社会の中で、常に正しくあることは容易ではありません。例えばWHOは、2019年まで「性同一性障害」を精神障害の1つとして扱ってきましたが(国際疾病分類)現在は、病気や障害ではないと定義しています。このように知識は常にアップデートが必要で、また膨大な知識を蓄えていたとしても、人によっては捉え方や受け止め方が異なり、唯一の「正しい」マニュアルはありません。では、私たちはどうすればいいのか。
杉田俊介さんの著書『マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か#MeTooに加われない男たち』(2021年、集英社新書)から印象的な一節を紹介します。「複雑なものを複雑なまま、めんどくさいものをめんどくさいまま、粘り強く考え続けていくこと。(p.120)」強くゆるぎない正しさではなく、のたうち回り弱さをも内包した「まっとうさ」(倫理的、理性的態度)について考察し、議論している本です。「正しさ」にモヤモヤさせられているあなたにきっとヒントを与えてくれますよ。
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