◆文集の力
大阪教育大学では、毎週金曜日の午後、「しきじ・にほんご天王寺」という、地域で生活していく上で必要な読み書きことばを学ぶ場を提供している。2023年度は、8つの国や地域から30人ほどの学習者を受け入れ、18人のボランティアの協力を得て運営することができた。この教室は、本学のインターンシップの場としても重要で、毎年10名以上の大学生や大学院生が共に活動している。
教室では、年1回自分の経験したことや、地域での暮らしについて、またことばを学ぶことについて文章を書き、それをまとめて文集を発行している。この文集は、学習者やボランティアのお互いの思いを知り合うことができ、教材としても活用している。今年、第4号を数える文集に、初めてインターンシップの学生が文章を寄せたので、そのことを紹介したい。
しきじ・にほんご天王寺では、学習者とボランティアが4人〜5人程度のグループで学習することを基本としている。彼が入らせてもらったのは、韓国出身で長く日本で暮らしている学習者、最近韓国から日本に来た学習者、イタリアから来た学習者、そして2人の日本人ボランティアのグループだった。多くの場合、ボランティアが教材を準備して学習を進めるが、このグループでは、毎回ボランティアだけでなく学習者も題材を持ち寄って、それを互いに読み合い、話し合うという学習スタイルを取っている。読み書きことばの学習の上では、先進的なスタイルである。その中で30時間のインターンシップを経験できたことは、彼にとって大きな経験になっただろう。
彼の作文のタイトルは「親愛なる両親へ」で、こう書き出している。「久しぶりに手紙を書きます。おそらく小学生の頃以来だと思います。せっかくなので、普段なかなか伝えられない感謝の気持ちを綴りたいと思います。」父への感謝、母への感謝のことばが、具体的なエピソードとして書きつがれ、最後に「生まれ変わってもまた二人の子供でありたいし、自分が親になったら、お父さんとお母さんのような親になりたいと思います。」と結んでいる。
このグループでは、お互いに持ち寄る題材は、原稿用紙に手書きで書いた作文であったり、ワープロで作成したものでも、自分のこと、自分が体験して思ったことが中心だ。それをもとに毎回語り合う学習の中で、彼自身が自分を見つめ、自分のルーツである父や母への感謝を改めて意識化することになった。彼のお父さん、お母さんにとっては、実際に手紙の形で息子の気持ちを受け取ることもうれしいだろうが、手書きの文字で文集となって届けられることによって、喜びはひとしおだったにちがいない。
岡田 耕治(大阪教育大学)
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