【百舌鳥・古市古墳群 世界遺産登録5周年! 3. 古墳の埋葬施設について】
古墳はお墓です。どんなに大きな古墳でも、中に人が葬られています。葬られた場所は、前方後円墳や帆立貝形墳(ほたてがいがたふん)では円形部分(後円部)の中央、方墳(ほうふん)や円墳(えんぷん)ではその中央であるのが一般的です。
人を葬るために、入念なつくりの埋葬施設が設けられたことが分かっています。その構造によって、竪穴式石槨(たてあなしきせっかく)、粘土槨(ねんどかく)、横穴式石室(よこあなしきせきしつ)といったように呼ばれています。槨(かく)とは、棺を覆うような構造のもの、室(しつ)とは、棺を納める部屋のような構造のものです。
埋葬施設の中には、被葬者を納めた棺がありました。棺は、石や木を加工したもの、粘土で形をつくり焼成したものなどがあります。古市古墳群にはありませんが、麻布を漆で貼り重ねて作った、夾紵棺(きょうちょかん)と呼ばれるものもあります。
棺の形には、衣服や調度品などを入れる長持ちに似たもの、家の形に似たもの、船の形に似たものなどがあります。また、丸太を縦方向に真っ二つに割って中をくり抜いたような形もあり、「割竹形(わりだけがた)」と呼ばれています。
古市古墳群の墳丘長200メートルを超える前方後円墳の中で、唯一埋葬施設の調査がなされた、津堂城山古墳の事例についてご紹介しましょう。
津堂城山古墳では、明治45(1912)年、後円部で埋葬施設が見つかりました。その中には石棺(せっかん)があり、さまざまな副葬品が納められていました。これは、当時大きなニュースとなったようで、東京や京都などからも研究者が調査に訪れ、詳細な報告を残しています。
見つかった石棺は、長持ちに似た、長持形(ながもちがた)石棺と呼ばれるものです。長さ3メートル以上あり、合計6枚の石を組み合わせて作られています。材質は竜山石(たつやまいし)と呼ばれる凝灰岩(ぎょうかいがん)で、産地の兵庫県高砂市からはるばる当地まで運ばれてきたものです。蓋(ふた)には16個の長方形の文様が刻み込まれ、各辺には2つずつ、計8つの突起(とっき)を持っています。また、側石(がわいし)と底石(そこいし)にも突起がついています。
長持形石棺は、穴の中に据えられた後、外側を高さの半分よりやや下まで土で埋められます。そして、埋まらずに残った部分を覆うように四周に割石(わりいし)を積んで壁にし、最後に上方を7枚の板石で蓋をしています。このように石棺を石で覆った施設が、竪穴式石槨と呼ばれるものです。
以上のように、古市古墳群の、特に大きな古墳に人を葬る際には、埋葬施設や棺など、大きな労力を要する作業のあとを見ることができます。これに埴輪や副葬品なども合わせ、古墳への埋葬にあたっては非常に入念で独特な葬送儀礼が行われており、世界遺産としての価値の一つとされています。
(文化財保護課 新開義夫)
<この記事についてアンケートにご協力ください。>