■避難所の事例から考える 私にできること
私たちは、同じ地域で、さまざまな人と共に暮らしています。
私たちが安心して気持ち良く暮らしていくためには、自分のことだけを考えるのではなく、相手のことや周囲の人のことも考え、思いやることが必要です。そして困っている人がいれば手を差し伸べること、自分ができることを考えることも大切です。
しかし、例えば地震や台風など災害の非常時、ストレスが強くかかり切迫した状況の中でも、私たちは手を取り合うことができるでしょうか。今号では、避難所で起こり得る人権トラブルから、私たちができることを考えていきます。
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○考えてみて 避難した先のこと
災害は、私たちに大きな心理負担を与えます。家財を失ったり、親しい人が犠牲になったりと、不安や悲しみを抱えたまま避難することは、とてもつらいこと。
また避難グッズを抱え家族とともに移動する際の疲労、家族以外の避難者との共同生活、避難スペースの確保など、日常と異なる状況に、肉体的にも大きな負担がのしかかります。
○あふれかえる人 不安やストレス抱え
避難所には収容できる人数に制限があり、大きな災害で多数の住民が避難すると、一時的に人があふれかえります。生活環境が激変する中、プライベートな空間も十分に確保できず、不安や恐怖、悲しみの感情を抱えながら睡眠不足になることも。
また避難生活が長引くにつれ疲労が蓄積。将来の不安や慣れない生活のストレスも増大し、うつやパニックなどの症状が現れる人もいます。
○薄らぐ他者への思いやり 行き過ぎれば差別や人権侵害に
このような状況の中、私たちは何ができるでしょうか。誰もが自分や家族を守ることが最優先になりますが、それは他者にとっても同じこと。あるいは自分よりも一層困難な状況にある人々とも、生活していかなければなりません。
助け合うことが大事だとは分かっていても、切迫した状況で自分に余裕がないと、他者への思いやりが薄らぐことがあります。それが言動となって相手を傷つけたり、行き過ぎれば差別や人権侵害にもつながりかねません。
■避難所で起こる事例
ここで紹介する事例は、過去の災害時に生じた事例を元に編集を加え、フィクションにしたものです。年齢や性別、特性、状況などは架空の設定です。
◆シチュエーション
大きな台風が接近し、河川が氾濫。長期間にわたる洪水被害によりA地域に住む住民の多くが、高台にあるB地域へ避難しました。
B地域の避難所は、多くの避難者であふれかえり、物資が不足している状況です。ひっ迫した状況の中、不安や恐怖、いらだちなど、さまざまな感情が渦巻いています。
▽事例1 泣きやまない乳児を抱える母親へ心ない言葉
生後6カ月の乳児を抱え、避難してきた20代の女性。配偶者は海外に単身赴任しているため2人で避難してきました。
乳児は避難所の環境に慣れず、避難した当初から大きな声で泣き続けています。母親があやしても泣きやまず、避難所内に泣き声が響きます。すると遠くで誰かが「やかましいわ」という声が。
母親はいたたまれない気持ちで、避難所から出て、外で泣きやむまであやしていました。
▽事例2 孤立している人が疎外感を感じる
1人暮らしの60代の男性。元々引っ越してきたばかりで友人がいませんでした。避難所にも1人で訪れ、長期間滞在することに。周囲の人は顔見知りが多いのか、会話したり、避難所運営を手伝ったりしていましたが、この男性には声がかからず孤立。次第に疎外感を感じ、うつ状態になってしまいました。
▽事例3 人それぞれの特性への理解とコミュニケーションの不足
何でも物に執着して集める特性があり、気付けば周囲は物であふれかえっていることがある小学生の男の子。避難所でも同様の状態でいたところ、その特性を知らずに、避難所のボランティアの人が良かれと思って掃除と整理をしました。それに気が付いた男の子は、大声を上げてパニック状態に。
■避難所コラム
○トラブルが起こりやすいケース
世論調査※で、東日本大震災の被災者にどのような人権侵害が起きていると思うか聞いたところ「避難生活の長期化によるストレスに伴ういさかいや虐待」を挙げた人の割合が61.4%。非常時の余裕のない状況で、他者への理解や配慮、コミュニケーションが不足したときなどに、トラブルが起こりやすいと考えられます。
※内閣府「世論調査報告書(平成29年度)」
○困難な立場の人
高齢者や障がい者、子ども、妊婦、外国人、病気の人などは、いわゆる要配慮者と言われます。避難自体が難しいだけでなく、情報が届かなかったり、精神的に不安定になりやすかったりと、避難所で困難な立場に置かれやすく、トラブルに遭う可能性も高くなります。
○助け合いが重要
緊急時には、自分と家族の命を守る行動(自助)と、公的な支援(公助)、そして近隣住民や被災者と互いに助け合うこと(共助)の相互連携が大切です。そのためにも、地域の中で日頃から声を掛け合うなど、顔の見える関係をつくっておくことが重要です。
問合せ:人権・男女共同参画課
【電話】674-7575
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