■INTERVIEWから学ぶ
災害時に起こりやすい人権を損なうケースを元に、私たちが気を付けること、「災害時」と「日常」の関係を聞きました。
▽気象予報士・防災士 正木明さん
天気キャスターとして長年報道に携わる。生放送中に阪神淡路大震災を経験。また相次ぐ自然災害を目の当たりにし防災士の資格を取得。気象災害発生時には防災の視点を取り入れた気象情報も発信している。
◆共に暮らすためにできること
避難所での生活は想像よりも大変です。普段なら仕事と家庭を分けて、家庭で休息を取れていたはずが、避難所になるとその区切りがしづらく、ずっとストレスのかかった状態になります。
これが、季節が真冬、真夏などの状況下だとさらに過酷に。感染症対策なども重要で、過去には避難所内の大半が集団感染した事例も起こっています。
○起こり得る人権トラブル
避難所で起こる人権課題として、男女の配慮の問題がまず挙げられます。長期間の避難所生活では、例えば下着の洗濯物を干すとき、トイレに行くときなど普段よりはるかに気にしなくてはいけません。物資の供給でも生理用品などの配布が後回しにされていた事例や、小さな赤ちゃんを抱えたお母さんが夜泣きする子をあやすために、周囲の人に気を遣って避難所の外に出ていたという事例もあります。
それ以外にも、世代間での考え方の違いから対立が生じてしまった事例、健康面・体調面で優れない人や障がいのある人、日本語が分からない外国人など、いわゆる災害弱者への偏見・差別的な言動の事例などが発生しやすくなります。避難所にはいろんな境遇の人が集まりますし、当然考え方・価値観も異なります。
○視野と想像力
これらが起こる原因は、災害時の切迫した状況で自分のこと、家族のことしか考えられなくなって視野が狭くなることです。もちろん、まずは自助が基本ですので、自分の命、家族の命を守るのは当然のこと。大切なのは、避難時には誰もがそういう状況になるということを、あらかじめ理解しておくことです。
それを前提に、避難所という狭い空間の中で他者と生活していくためには、どういった配慮が必要か、どういう問題が起こりそうか、などを想定しておく。そのためには、やっぱり定期的に避難訓練に行ったり、避難した経験のある人から話を聞いたりすることが効果的です。
また、一方で、知らず知らずのうちに自分が加害者になっていないか、誰かを傷つけていないか、という想像力を持つことも重要です。
避難所には、色々な事情や心配事を抱えていても、自分の意見が言えない人もいます。悪気のない言動が、誰かの心をつらくさせていないか、少しでも周りを見渡して気付くことが、大切なのだと思います。
○遠くの出来事を自分事に
避難所に行かなくてよいとき、普段の生活の中でこそ考えるのが大事だと、皆さんによく伝えています。
海外で竜巻が発生したというニュースが入ってきたとします。そのときに、もし自分の身の回りで同じことが起きたらどうするか、考えてみてください。例えば、帰り道で遭ったら、竜巻で家が壊れたら。同時に、誰がどんなことに困るのか、その人のために自分に何ができるのか、どうすれば共に乗り越えられるか、ということも考えてほしい。
そういう機会を増やすと、かなり意識が変わります。実際に災害に遭わなくても、自分のことに置き換えて考えてみる習慣を付けてみてください。
○日常から意識して
ここまで避難所での事例を考えてきましたが、これらは避難所だけではなく、普段の生活でも同じことが起こり得ることだと気が付きます。
私たちは一人で生きているのではありません。普段からさまざまな人と一緒に生活しています。災害時のことを考えてみることは、日常の中での他者との関わり合いや思いやりの気持ちについても、振り返るきっかけになると思います。
また、そういうことを日常の中でも考えていると、非常事態が起こったときでも、少し冷静に、周りの人を見て行動することができるのではないでしょうか。
◆正木さんのアドバイス
(1)視野が狭くなりがちと想定
緊急時は誰もが視野が狭くなることを前提に考え、自分の行動を想定してください。
(2)経験の蓄積を
訓練の参加や当事者の経験を聞くこと、遠くの出来事を自分事に考えることで自分の経験値に。
(3)日常から意識して
災害時を想定することは、意識を見直すきっかけに。日頃から思いやりの気持ちを忘れないで。
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