【INTERVIEW2】立命館大学 教授 斎藤真緒さん
フラットに、話を聞いてヤングケアラーに対し、私たちは何ができるのでしょうか。問題の背景や周囲の大人ができること、これからのケアラー支援について聞きました。
Q:なぜヤングケアラーが問題になったの?
A:高齢化の進展と家族の構成員の減少で1人の子どもが担う負担が増えたからです
Q:日本だけ?海外は?
A:イギリスでは1980年代から支援が始まっています。日本では近年ようやく問題視されてきた状況です
Q:周囲の人は何ができるの?
A:構えず、子どもが話しやすい、フラットな関係を。もし子どもから相談があればしっかり応じてください
Q:どんな社会を目指せばいい?
A:地域のつながりを深め、支え合い、助け合える社会に
▽斎藤真緒さん
立命館大学産業社会学部教授。「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」副代表。「子ども・若者ケアラーの声を届けようプロジェクト」発起人。高槻市内でもこれまでにヤングケアラーについての講演やセミナーを行ってきた。
■社会の背景
ヤングケアラーが問題になってきた背景には、家族構成の変化があります。家族のメンバーが少なくなっている一方で、高齢化が進み介護などのケアを必要とする家族が増えてきました。また同時に親が共働きで家にいないとなれば、どうしても子どもたちが家のことやケアを担う状況が増えてきます。そして今後もさらに増えるだろうと考えられます。
■問題点
子どもの多くは、家族が困っているとき、自分も何かやりたい、という気持ちを持っています。ケア自体がダメなのではありません。ケアはむしろなくならないし、ずっと続くことです。
問題なのは、ケアにだけ、自分のエネルギーを注いでしまう状況になること。ケアには、自分のことが後回しになる側面があります。その生活が続くと、ケアにどんなにやりがいがあったとしても、他のことができなくなってしまいます。将来ケアがなくなったとき、ケア以外の生活ができない、やりたいことが作れない。それはバランスが良くないと思います。
ケアがあったとしても、自分のやりたいことをする時間をちゃんと作れ、興味関心を育てられるという環境を、学校や社会が整えていくことが大事だと思っています。
■なりたくない心情
子どもたちは、大人がヤングケアラーという言葉を使えば使うほど、それを避ける傾向にあります。理由は複数考えられますが、一つは、やっぱり周囲からかわいそうだと思われたくないから。自分や自分の家族が支援される側だと認めることは、楽しいことではありません。また、家族や親が何か責められることは望みません。しんどくても自分だけ我慢すればいいんだと考えてしまう子も多いです。
社会の考え方も要因になっています。それは「家族は助け合わなければならない」ということ。私たちが当然のこととして教わってきたことですが、これが、家族の中の問題を家族で抱え込んでしまい、SOSを出せない結果につながっています。特に真面目な子ほど、言い出しづらいように思います。自分の人生を生きること自体がダメなんじゃないか、家族を見捨てることになってしまうんじゃないか、というように罪悪感を感じてしまう子どもが多いのです。ジレンマから抜け出すための道を社会がちゃんと示すことがヤングケアラーの支援の肝なのだと考えます。
■周囲の人ができること
ケアは、誰もが自分事になり得ます。いつか自分もケアされる存在になるかもしれませんし、ケアする側になるかもしれません。
もちろん社会の仕組みを充実させることも必要ですが、ケアを通じて地域の人たちが、つながり合ったり支え合ったりすることが何より大切です。そのために身近に暮らす私たちだからこそできること、例えばちょっと声掛けするとか、ごみ出しのときにあいさつするとか。普段から関係をつくっておくと、いつか自分の家族の中にケアが必要になったときに、地域の人々とのつながりが、生きてくるのではないでしょうか。
■子どもが楽しめるように
また、ヤングケアラーを支える上で大切な視点は「フラットな関係の付き合いをする」ことです。支援をする・される、かわいそうだから助ける・助けられる、といった関係性は望まれません。フラットな関係で、純粋に子どもが楽しめるプログラムにつなぐ機会を提供すること。今ある家庭の状況と少し離れたところで、何かすごく楽しいことをする。その中でもしかすると「こんなことをもっとやってみたい」という気持ちが育つかもしれません。
例えば、地域のラジオ体操に誘ってみる、町内会や児童会でのイベントを紹介してみるなど、子どもたちも気軽に参加しやすいですよね。構えず、フラットに、いつでも参加してね、待ってるよという姿勢がいいのかなと思います。
■これからのケアラー支援
ケアをする人「ケアラー」が支援の対象だということがまだ社会の中にできあがっていません。ヤングケアラーがきっかけになって、全世代のケアラーへの支援への議論に深まっていけばいいなと思っています。
ケアラーへの支援では、国も近年示している「多機関・多職種の支援」を進めることが大切です。つまり、支援者はケアラー本人だけを見ていても不十分で、彼らがケアしている相手の支援がどうなっているか、とセットで家族全体の支援をデザインすべきです。多様な相談機関を通して、介護保険制度をはじめ、さまざまな社会の仕組みをどんなふうに使えば、その家族が助かるのか、ケアラーが自分のやりたいことにもチャレンジできるようになるかを考えることが必要です。
また、ケアをする人とされる人との「つらさ比べ」をしないという視点も重要です。病気の人、障がいの人にはその人固有の大変さがあります。でも、その隣にいる家族にもケアによって自分の人生を生きられない固有のつらさがあるので、どっちがしんどいとか、こっちは後回しでいいではなくて、両方のつらさに寄り添って家族全体を支えていく。そのことで、家族関係もうまく回り、家族が元気になる。これが今求められているのだと思います。
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