◇多様な乗車サービス
西岡 子どもの頃からバスに乗ることに慣れ親しんでもらおうと、3年ほど前から小・中学生向けの「おでかけパス」の販売を始めました。長期休み期間は乗り放題になってお得です。他にも子育てしやすいまちに向けて妊婦さんが1回100円になる「こうのとりパス」を開始し、ご好評いただいているんです。
髙橋 子育て世帯にはうれしいサービスですね。令和4年には「かるがもパス」も始められていましたね。
西岡 はい。こうのとりパスを利用している人からアンケートで産後も使えるようなパスが欲しいというお声があり、1歳の誕生日まで同伴の保護者が100円で乗車できる「かるがもパス」というサービスを始めました。このパスは、子どもの健診時に子ども保健課で申請すれば受け取ることができるようにしていて、市の他部署と連携して事業を行うことで公営の強みを生かせています。
髙橋 たしかに公営だからできることかもしれませんね。あと、高槻に引っ越してきた人にもバスをアピールされているんですよね。
西岡 はい。転入の手続きで市役所に来庁されたときにバスの乗り方ガイドのチラシを配っています。QRコードを読み込むとバスの乗り方などについて詳しく知ることができます。
髙橋 こういう新しくバスの利用者を増やす取り組みはとても大切ですね。新しいまちに来ていきなりバスに乗るのはやっぱりハードルが高いものです。こういう「バスは便利だから乗って」と伝えたり、バスに慣れ親しんでもらうサービスを行ったりすることで、自然と乗る習慣ができて、バスを利用し続けてもらえると思います。
◇乗降時2タッチ方式
西岡 バスの乗り方といえば高槻では2タッチ方式を導入していて、乗るときと降りるときにICカードをタッチしてもらっています。
髙橋 2回タッチしてもらうことで、利用者の数や時間帯、どこから乗ってどこで降りたかが正確に分かるようになりましたね。
西岡 以前は5年に一度の実態調査と乗務員からの報告など感覚的なものを頼りにしていましたが、2タッチ方式導入後は、正確な利用データを得られるようになって、より各路線の利用状況にあった運営ができるようになりました。
髙橋 そうですね。これから人口が減って利用者が減っていくにしても、このデータがあれば利用者の実態にあわせた路線や便数で運行を続けられると思います。
西岡 将来はこのデータに天候データなどを組み合わせた情報発信ができるようになれば、と考えているんです。雨の日はバスの利用者が増えてどうしても遅れが出る路線が発生します。雨だと平均何分くらい遅れが出るので、早めの行動をお願いするなど、生活の中で使っていただけるデータ活用を考えています。
■公営だから市民の目線で運営できる
◇海外のバス事情
西岡 髙橋会長は令和4年、海外の交通事情について研究するためにイギリスに行かれたんですよね。
髙橋 はい。日本と海外ではさまざまなことが違いました。海外の公共交通機関は国や自治体から補助が入るのが当たり前の状態で、民間の会社が儲かっていたのは100年以上前の話なんです。世界的にみると日本のように民間企業が独立採算でバスを運営しているのは珍しいです。
西岡 最近では日本でもローカル線などで自治体が支えないと運営が成り立たないという話もありますから、他人事ではありませんね。
髙橋 はい。例えばロンドンでは民間のバス会社に委託して自治体がバスを運営しているのですが、運行自体がバス会社に任せっぱなしになっているので実際どれぐらい利用されているのかなどのデータはあまり取れていない感じでした。また頻繁にダイヤや系統番号が変わったり、長い路線を途中で切ってしまったりと、驚くこともありましたね。
西岡 急に変更されるんですか。
髙橋 何日か前から告知するのが原則ですが、停留所の掲示などでの周知徹底が十分でないこともありましたね。
時代に合わせた運営が必要ではありますが、市民の生活に合わせた路線の管理や運営をしていくという意味で、公営の重要性を感じました。
■今後も市民のための「動く市道」に
◇これからの市営バス
西岡 高槻は地形的に南北に長くてそのちょうど真ん中あたりに駅があるんですよね。駅に向かう市民の移動手段を確保していくという役目を持っていたから、70年やってこられたと感じます。開業当時の市長が、「『動く市道』にしていく」というキャッチコピーを出されていたんですが、まさに今にも通ずるところがあります。地方路線の廃止などがニュースになる中で、これからも地域の交通インフラとして維持していくことが必要です。
髙橋 20年前は交通手段のない地域を走るコミュニティバスがブームで自治体の半数が持つほど全国的に広がっていったんですが、高槻の場合は市営バスがその役割を果たしていたんですよね。まさに「動く市道」という表現に合致していて、70年前からそういう理念を持って根付かせてきたという積み重ねがこの歴史につながったのではないでしょうか。
西岡 今では少しずつお客様が減っているのも事実。一方で経営し続けるために、今バスを利用していない人にどう振り向いていただけるかが重要です。私たちが一番つらいことは、お客様がバスに乗ることにストレスを感じて、バスから離れられてしまうこと。
そのためにも、先ほど話したようなデータの活用で利便性を高め、ストレスを軽減させたり、こうのとりパスやかるがもパスのようなサービスを充実させたりして、毎日でなくてもバスを使うことが習慣になるような施策を進めていく必要があると感じています。
どんなときも安全輸送が第一ですが、これからは100周年を目指して次の顧客を獲得するための取り組みに力を入れていきたいです。そして、府内唯一の公営バスを守っていきたいと思います。
髙橋 これからの時代こそ、高槻は公営バスがあることの強みを生かしていけるのではないかと思います。公営であることで、先ほどもおっしゃっていたように、行政が行っている施策と連携して市民の求めるサービスを提供することができるわけですよね。
そして目先の利益だけではなく、市民のために必要な路線などを確保するような運営を行うことができるのだと思います。これからも公営である強みを生かせるように、お手伝いさせていただければと思います。
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