◆DVを理解しよう
DVはなぜ起きてしまい、深刻化するのでしょうか。
研究者の山中さんに、そのメカニズムや心理状況などを聞きました。
▼DVはなぜ起こるの?
○加害者心理「支配とコントロール」
・自分が認められる・尊重されるという欲求が社会的関係で十分に満たされない経験の積み重ね
・その欲求を家庭内で満たそうとする心理
○両者のパワーバランスの偏り
・体力や筋力
・経済力
・社会的立場
・言語能力、コミュニケーション能力
・ネットワーク、情報力 など
▼加害者・被害者・周囲の人(社会)が持つ ジェンダー意識、家族観、パートナー観
□ジェンダー意識
・「男だから~」「女だから~」
・女性は結婚したら家のことをうまくやるべき
・夫の感情を受け止めるのは妻の役割
・男性はどんなときも強くあるべき
□家族観
・人は結婚して一人前
・家族は両親そろっていた方が子どもは幸せ
・強い男性が家族を統率すべき
□パートナー観(配偶者・恋人観)
・パートナー(好きな人)なら何でも言うことを聞くのは当たり前
・パートナーなら行動を全て知りたいと思うのは当たり前
・パートナーの感情はどんなときでもうまく受け止めるのが良い
■被害者の行動・思考などを支配
加害者の根底に共通してあるのは、相手を「支配とコントロール」しようとする心理です。加害者は家庭の外の社会的関係で自分が認められない・尊重されない経験をし、自尊感情が低下していると、家庭の内に自分より弱い存在を作り出して思いどおりに支配することで、低下した自分の自尊感情を高めようとします。DVはこのような「加害者の内的な必要性」に起因して起こります。
また夫婦間のパワーバランスの偏りも要因になります。これは体力・筋力の格差だけでなく、収入や仕事の有無による経済的な格差や相手を説き伏せるような言語能力・コミュニケーション能力の格差などが当たります。夫婦のいずれかがより強いパワーを持っていると、パワーを持っている側が相手を支配し、コントロールしても当たり前だとの誤った認識を持ちやすくなります。
■社会が持つ家族観などで深刻化
さらに、周囲の人や社会一般のジェンダー意識、家族観・パートナー観がDVを深刻化させています。
加害者側は、例えば、家事(料理、洗濯、掃除など)をうまくこなすことは女性の役割だというジェンダー意識を持っていると、期待する役割を十分果たしていないと判断した被害者に対して、女性としては低い評価を与えます。
これに対して、被害者の側も同じく、うまくこなすことは女性の役割だというジェンダー意識を持っていると、十分に果たせなかった自分への自信の揺らぎや喪失を感じ、評価を上げようと、無理難題であっても加害者の要求に過剰に応えようとしてしまうことで、さらに事態が深刻化(上欄の「被害者のよくある心理や思考」)します。
■さまざまな手段で繰り返す暴力
暴力は突如大爆発するよりも、小さな暴力から少しずつ、徐々に大きく頻繁に、そしてさまざまな手段で繰り返し行われると言われています。
これはDVサイクルと言われますが、DVを行うとき(爆発期)、優しいとき(ハネムーン期)、平常なとき(緊張形成期)を繰り返します。実際には、ハネムーン期が徐々に短くなる一方、爆発期の期間が長く、さらに頻度が上がる傾向があります。
加害者は、殴る蹴るといった身体的な暴力だけでなく、周囲の人からも察知しづらい精神的・社会的な暴力などを使い分け、少しずつ被害者を支配していきます。
・教えてくれた人
コラボレーション実践研究所
所長 山中京子さん
大阪府立大学名誉教授。DV被害者の実態調査やその支援方法の研究を行うほか、DV被害者の支援者に対する研修を多数実施
[check3]これってDV?
あなたとパートナーの関係をチェックしてみましょう。思い当たることはありませんか?
◆配偶者から
こんなことされていませんか
・傷つく言葉を言われた。後で謝られるけど
・あれもこれもできていないとダメ出し。周囲の人と比べてそんなことないと思うけど
・話し合ってもいつも一方的。自分の気持ちや意見が言えない
・怒ると物に当たったり、殴る素振りをされたりした
・どこに行くにも細かくチェックされる。少し厳しすぎる気がする
・仕事を辞めさせられた。もっと働きたかったのに
◆あなたの気持ち
こんな状態になっていませんか
・自分は何をやってもダメだと段々自信がなくなっている
・こんなことで悩んでいるのは自分だけ。誰に相談しても解決しないし、我慢すべきと説得されるだけ
・暴言を吐かれても、たまになので、大したことない。相手の優しい部分も知っている
・自分が悪いから。注意してくれているだけ
・自分で決めて結婚したし、子どものためにも我慢
●チェックのある人は2人の関係性を見直してみる必要があります
◆被害者のよくある心理や思考
▽加害者に対し 過小評価、責任の過剰な引き受け など
・大したことないんです
・いつもじゃないから
・自分が悪いんです
・子どものためには
▽自分自身に対し 自信喪失、無力感 など
・やれるのだろうか
・どうせ自分には無理
・やったって変わらない
・どうしようもない
▽周囲の人に対し 孤立感、不信感 など
・誰にもこんなの分からない
・どうせ説得される
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