郡市長がさまざまな現場を訪問し市民の皆さまの活動の様子などをお伝えします
■第54回 仙台かえりびなの会編
東日本大震災後、行方不明者の帰りを願い「かえりびな」作りに取り組む、「仙台かえりびなの会」の皆さんにお話を伺いました。
○かえりびなとの出会い
この日、せんだい3・11メモリアル交流館に伺うと、「仙台かえりびなの会」の皆さんが手のひらサイズのひな人形「かえりびな」と共に出迎えてくれました。この愛らしい人形は、全て皆さんの手作り。「かえりびなは元々還暦を迎えた女性に贈るものですが、私たちは、震災でまだ見つからない方々が1日でも早くご家族の元に還(かえ)ってくるようにと制作しています」と説明してくれたのは代表の松崎翠(みどり)さん。震災を忘れないでほしいという思いから、毎年2・3月にかえりびなを展示しています。
現在、会のメンバーは4人。全員、震災で被災し、住み慣れた土地を離れて暮らす中、災害ボランティアセンターが主催するかえりびな作りのワークショップで出会ったそう。千葉とき子さんは「自宅が全壊になって家を移り住み、心がもやもやして苦しい時でした」と、当時を振り返ります。「かえりびなを作っている時は夢中になれました。つらい思いをしている方が、私たちのようにかえりびな作りを通して悲しみを癒やせたら、と会を立ち上げました」と松崎さん。かえりびなに救われた皆さんの体験が、活動の原点となっているのですね。
○広がっていく笑顔の輪
会では月2回、かえりびな作りの講習会などを開催しています。「準備のために、自宅に材料を持ち帰って作業することもあります」と語るのは齋藤和希子さん。人形に使う細かなパーツは準備が大変そうですが、千葉さんは「講習会に来てくださった方々の笑顔を見ると、私たちも元気をもらえるので、生活にはりが出ます」と続けます。震災に対する思いをそれぞれ抱えながら、自身の生きる力につなげている姿に、心を打たれました。会の発足からもうすぐ11年。長く続けてきたことで、たくさんの結び付きが生まれました。津田由美子さんは「市外で講習会を行う機会もあるのですが、参加した方などから生地に使う着物をいただくこともあり、ありがたかったです」と感謝を口にします。さらに、「七夕の時期に、復興を祈るミニ七夕飾り作りをしたらとても喜ばれました」とほほ笑む津田さん。こうした活動の広がりが、震災の風化を防ぐことにつながっていくのだと感じました。
最後に、元日に地震が発生した能登地方にはせる思いを、齋藤さんが話してくれました。「私たちはこの活動を通して少しずつ明るくなれました。今すぐは無理でも、被災地の方にかえりびなで笑顔になってもらえたら」。自身も被災された経験があるからこその言葉に、皆さんもうなずいていました。
○これからも思いを届け続ける
丁寧に作られたかえりびなからは、一刺し一刺しに皆さんの思いが込められていることが伝わってきました。行方が分からない方々の1日も早い帰りを願わずにはいられませんし、誰一人取り残さない復興を進めていかなければと、改めて思いを致したところです。皆さんの活動が末永く続くこと、そして、復旧・復興に向けて歩む能登の方々の元へ、皆さんの思いが届くことを祈っています。
※「松崎」の「埼」は環境依存文字のため、置き換えています。正式表記は本紙をご覧ください。
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