●私たちが発見した下関の魅力
市長
武井さんはどうして下関を選ばれたんですか?
武井
結局、私も漁業就業支援フェアです。福岡県で開催されると聞いて、物は試しに行ってみました。全国版の漁業就業支援フェアで、北は青森から南は鹿児島までのブースがありました。一本釣りをメインに探す中で「一本釣りじゃあ飯は食えん!」と各ブースで言われ「駄目なのかな?」と思っていたところ、最後に訪れたのが下関南風泊支店だったんです。一本釣りを掲げていた看板の横に「わかめ養殖で半年分の収入が得られる」とあったので、詳しく話を聞きました。規模が大きくない商売でも十分生活できると後押しの言葉を頂いて「ビビッ!」と。絶対にここがいいなと思いました。研修を終え、ご縁があって組合員にしていただきました。
市長
ご家族の反応はどうでしたか?お子さんもいらっしゃいますよね。東京のシステムエンジニアから一転、ご家族は「辞めて漁師で下関。何で?」ってなりませんでしたか?
武井
実は、妻は田舎暮らしにあこがれていて「移住」という気持ちがあったんです。下関は山も海もすぐ近くにあって自然豊かですよね。東京みたいな都会ではないけれど不自由がない。すごく住みやすいです。子どもが小さかったことも考えると、今思えば、下関に移住して良かったなと思います。言い方がすごく難しいですけど「トカイナカ(都会と田舎の中間)」。怒られちゃいますかね?
市長
「トカイナカ」、私たちはその辺りを目指しています。都市機能がそこそこあって、住みやすくゆったりした時間を過ごせるまちですね。たまの休みに「これをやろう!」って思い立ったらすぐに出掛けられる。そうやって羽を伸ばす人生も面白いと私は思います。
泉
大阪から来た私も特に不自由はないです。住まいは、泉水産の倉庫を改装した寮のような建物に、漁業の大ベテランの方々と一緒に住んでいて、いろいろ漁業のことを教わっています。
市長
村下さんは、下関出身ですけど、漁師になる前と後で、下関の海の見え方に変化などありましたか?
村下
漁師になる前は、穏やかな下関の海しか知りませんでしたが、実際に海に出ると、波が立つと怖いし、不安がよぎります。それでもやはり、良いものは良いと感じます。朝日や夕日、それに海に囲まれ、自然の中で仕事ができるのは、すごいパワーをもらえます。
市長
よく分かります!私は夏は必ず海に飛び込んで、頭の先からつま先まで全身をリセットさせます。目に見えないパワーを感じるんですよね。
一同
(うなずく)
●漁業の楽しさや、やりがいそして苦労
武井
沖に出る前に「あそこに行くぞ」と漁場を予測して、魚の大群に当たったときに楽しさを感じます。「キターッ」って思いますね。あとは、努力した分だけ収入に返ってくる可能性があることです。もちろん、駄目なときもありますが、明日以降の成果に必ずつながります。
泉
たくさんの魚が獲れたときにやりがいを感じます。まき網漁業は、自分1人でやっているわけではなく、乗組員同士が連携して漁網で魚群を囲い込み、一網打尽にして捕らえます。魚がたくさんかかると、なかなか網が揚がらないときもあります。逆に魚群を発見できずに、帰港するときもあります。そのときはどうしようもないですね(笑)。
市長
何隻で魚を獲りに行くんですか?
泉
5隻(本船、運搬船2隻、探索船2隻)です。蓋井島沖から角島沖の海域で、夜中0時を目途に操業を開始します。1セット2時間程度の作業を2セット。早朝5時ごろ仕事を終え、帰港する。無事に帰ると「ホッ」とします。
市長
私は、大学の実習でまき網漁業を経験しなくてはいけなかったんです。1カ月間の海上での生活です。遠洋漁業でインドネシアの沖(赤道辺り)の大海原。島も何もない所で漂流して浮いている流木を探しました。その下に魚が「ドワッ」といるんです。魚が少ないと判断したら流木にレーダーを設置して、また2、3日探す…。漁場が決まったら、深夜2時から200mの網を引き揚げる。そして甲板作業。皆さんは海に出るのが日常ですよね。すごいです。
泉
時化がなければですね。
市長
それもありますね。毎日、波が違いますからね。
泉
社長が出港するかどうか判断するんですけど、安全を最優先に考えているので、波の高さが1.5mあれば、あまり出港はしないです。
市長
一本釣りだったらどうですか?
村下
出港しないですね。海の波長にもよりますけど。
市長
船を出せない日もあるから、自分の時間の使い方が劇的に変わったんじゃないですか?
村下
そうですね。漁師は休みが多い、それは僕にとって嫌ではないです。自分の時間がつくれます。漁師の楽しさは、自分で考えた道具がはまったときに感じます。最高にうれしいです。針の大小、糸の太さ、ほんのちょっとしたことで漁獲量が変わります。まだ道半ばですけど。
市長
せっかく良い獲物(魚)を獲っても「これくらいの値段でしか買ってくれない」って世界もあるでしょ?
武井
逆に魚価に浮き沈みがあるから面白いというのもあります。時化のときに頑張って出港して、市場で「ドンッ」と魚価が驚くほど跳ね上がるときがあります。魚を活かした状態で市場に持って行くと、とても良い値になることもあります。
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