■漫画家 青池保子さん
「エロイカより愛をこめて」「アルカサル-王城-」など数々の人気漫画を描き続ける下関出身の青池保子さん。豊かな知識と緻密な取材に基づいた、華麗で独創的な世界を展開する青池さんを紹介します。
■精魂込めて描き続ける漫画人生
□水野英子さんとの出会い
幼少期、青池保子さんは専ら少年誌のアクション漫画を愛読していましたが、同郷の漫画家・水野英子先生の少女漫画は例外だったそうです。大ファンである水野先生に手紙を送り続けたある日、先生から思わぬ返信「下関に帰省するから遊びにいらっしゃい」。その瞬間、「天にも昇る気持ちでした」と青池さんは話します。
中学1年生の夏、青池さんは高校2年生の姉に付き添われて、バスを乗り継ぎ、先生の自宅を訪ねます。ひっつめ髪にした水野先生のテキパキとした口調と振る舞いは、いかにも仕事人らしく「ああ、東京で活躍している漫画家の先生だ」と感銘を受けます。そして、「星のたてごと」の主人公をサラサラとB4原稿用紙に下描きし、ペン入れする技術はまさに神業で、何冊もの教材よりも大きな学びとなったそうです。「水野先生が同郷のご出身ではなかったら、私の漫画家への歩みはどうであったか」と忘れられない夏の訪問を振り返ります。
その後、1年がかりで描き上げたファンタジー漫画を水野先生に送ったことで、青池さんにさらなる転機が訪れます。
□脱・少女漫画、新境地へ
出版社から「水野先生から作品を見せてもらいました。正月号に短編で描いてください」。ページ数と締切日を告げられ、混沌の中でも必死に描き上げたデビュー作品「さよならナネット」が掲載されたことで、15歳の漫画家が誕生したのです。
それからの10年間は「りぼん」「週刊少女フレンド」等の著名な雑誌で、メロドラマや学園ラブコメディを描き続けましたが、自分の好きなものを描こうと、専属からフリーの漫画家になることを決意します。
ドタバタや歴史パロディ、ロックなど、興味あるものを全部詰め込んだ「イブの息子たち」を皮切りに、個性的なキャラクターたちの丁々発止なやりとりから展開する意外性に富んだ物語が面白い「エロイカより愛をこめて」など、破天荒なものが好きな青池さんは新境地を開き、多くのファンを魅了していきます。
□漫画家として大切なこと
青池さんが描くヨーロッパを舞台とした数々の漫画は、その時代ごとの歴史や文化、芸術を見事に表現しています。「題材に誠実に向かい、できるだけ資料を調べて、嘘は描かない。また、その分野を大切にしている人に対して敬意を払っています」と青池さんが漫画家として大切にしていることを教えてくれました。漫画制作のデジタル化の波はあれど、60年間練磨し続けてきた漫画家の肉筆原稿。精魂込めて描かれた物語とその画力に、青池さんのエネルギーを感じます。
□漫画家生活60周年記念 青池保子展 Contrail 航跡のかがやき
秋田書店が所蔵するカラー原稿から厳選した作品を中心に、過去の展覧会では出品されなかったモノクロ原稿などをあわせ約300点の原画により構成。青池保子の作品世界、その華麗で綿密なビジョンを堪能するまたとない機会です。
期間:10月14日(月曜日)まで
休館日:月曜日(10月14日は開館)
場所・問合先:美術館(【電話】245-4131)
(写真)読者が楽しめるように、面白い題材をいつも探し、描いています。
(写真)特別展の様子
「青池先生の漫画と百科事典を見比べながら歴史を学んでいました」「青池先生が同郷で誇らしいです」と来館者から喜びの声がありました。
(写真)「エロイカより愛をこめて」12年ぶりとなるカラーイラスト
少佐と伯爵が赤間神宮に。この特別展のために描き下ろされた作品(原画)を美術館で鑑賞できます。
※写真は本紙参照
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