■目では見えない生物との出会い
人間は古くからさまざまな生物を描いて表現してきました。岩国徴古館にある江戸時代の資料の中にも、牛や馬、鳥や犬といった動物から、昆虫や水生生物など、幅広い生物が登場します。それらは写実的に、時には戯画のようにラフに描かれ、さらにはデザインとしても取り入れられ、生物が身近な題材であったことが分かります。
その中で、江戸時代の資料には登場しない生物がいます。それはミクロ生物(※1)です。現在、ミクロ生物を観察する際に用いる顕微鏡は16世紀末にオランダで発明されました。当時の日本では、海外との接触が制限されていたものの、オランダとは長崎・出島を介して交流が続けられていました。そのため、海外への関心が高まるにつれて、オランダの地理や文化を紹介する本がいくつか発行されました。その中の一つ、「紅毛雑話(こうもうざつわ)」には、「ミコラスコービユン之図」として、当時の顕微鏡の図が使い方とともに記され、顕微鏡で拡大して見たノミやアリなどの小さい虫も大きく描かれています。岩国徴古館にも、この顕微鏡に関する部分のみを写した資料が残っており、顕微鏡や小さな生物への関心がうかがえます。江戸時代後期には日本でも、植物の細胞や雪の結晶の研究といった自然科学の分野で、顕微鏡が活用されました。
しかし江戸時代においては、顕微鏡は大変貴重で高価な器具であったため、多くの人々は顕微鏡を使用する機会がなく、ミクロ生物の存在に気づかずに、描くことがなかったと考えられます。
明治時代になると、欧米からの知識が流入し、顕微鏡やそれによって見えるミクロ生物の存在が広く知られていくことになります。20世紀に入ると、顕微鏡の国産化が進むとともに、学校教育でもゾウリムシが紹介され、アオミドロ、アメーバと種類が次第に増えていき、現代の生物学教育につながっていきます。
今では当然の存在であるミクロ生物は、技術の進歩によって出会えた存在だと言えるでしょう。
※1 目では見えないほどの小さな生物
▽岩国徴古館(いわくにちょうこかん)
昭和20年に旧岩国藩主吉川家によって建てられ、その後岩国市に移管された市立の博物館
住所:横山二丁目7-19
【電話】41-0452
休館日:月曜(祝日の場合はその翌日)
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