■岩国の家伝薬(かでんやく)
私たちが生活の中で使う薬は、法律により許可された業者が製造しています。しかし、法律ができる以前は、寺院や民間の家々に伝承されている薬「家伝薬」が作られてきました。今回は、江戸時代の岩国で作られた家伝薬について紹介します。
もともと日本における薬は、奈良時代以降、長い間役所や寺院が主に担当し、作られてきました。江戸時代に入ると、作り手の範囲が広がり、武士や町人の家々などでも薬が作られるようになりました。
薬の作り方は秘伝の場合が多く、その実態がよく分かっていません。しかし、岩国吉川家の家臣・大屋家(おおやけ)に伝来した史料「諸経験良方下(しょけいけんりょうかたげ)」には、江戸時代の岩国の家伝薬に関する記述があります。この史料から、いくつか家伝薬の事例を見てみましょう。
一つ目は、岩国吉川家の家臣・佐江木治右衛門(さえきじえもん)の家に伝わるできものに効く妙薬です。史料には、焼いたフナを細切りにして水に溶き、腫れて痛む箇所に塗り込むと、血液中の熱が抑えられる効果があるとあります。
二つ目は、同じく岩国吉川家の家臣・川戸全治(かわとぜんじ)の家に伝わる鳥金丸(ちょうきんがん)という薬です。黄連(おうれん)・黄岑(おうごん)・大黄(だいおう)・莪朮(がじゅつ)などの生薬と鉄砂(てっしゃ)を混ぜ、のりで固めて作られたとあり、効能については、心疾患などに効くとあります。
三つ目は、町人の草津屋吉左衛門(くさつやきちざえもん)の家に伝わる痔に効く薬です。柑橘類のダイダイを黒焼きにし、一味唐辛子と混ぜ、白湯に入れて飲むことで痔に効能があるようです。
史料では、薬の調合方法や処方の仕方、効能などが詳しく紹介されており、江戸時代にそれぞれの家で作られた家伝薬を伝えてくれる貴重な情報といえます。
家伝薬が各々の家で作られた事例を見ると、当時の人々が身体の不調に対する備えを強く意識していたことが分かります。また調合方法の内容から先人たちの知恵と研究心の高さが伝わってきます。
・7月21日(日)から企画展「岩国を知ろう!岩国の怪談×US―2」を開催します。
▽岩国徴古館(いわくにちょうこかん)
昭和20年に旧岩国藩主吉川家によって建てられ、その後岩国市に移管された市立の博物館
住所:横山二丁目7-19
【電話】41-0452
休館日:月曜(祝日の場合はその翌日)
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