『執着心が切れますか』
物を大切にするとか、物をとっておくことの習性は、戦中を生きてきた人には強いものがあります。
農家では、米はもちろん、味噌、つけもの、薪などを一年分蓄えていました。瓶にはボタン、引き出しにはひもや端布(はぎれ)、釘箱には曲がった釘など、多種多様な品がそれぞれ保管してありました。衣類は最終的には雑巾になるので、少々破れていてもとっておくのが常識でした。
昭和五十年頃になると「消費は美徳」の言葉とともに、使い捨ての言葉がはやりました。そのころから母も妻も、それぞれの母が亡くなったら、それぞれの遺品を整理すると言っていましたが、いずれの場合も遺品は以前のまま残っています。物を大切にし、もったいないとか何かの役に立つだろうとか、物にこだわる執着心は人間の性(さが)であり、簡単には捨てることはできないのでしょう。
最近、「断捨離」という言葉を見受けます。これは、不要な物を「断ち」・「捨て」・物への執着から「離れる」ことを勧める言葉です。私たちの物への凝り固まった執着心を捨て、物から離れ、物にとらわれない生き方で、身辺整理や遺品整理を見直せということでしょう。
しかし、断捨離の意味は理解できても、物への執着という人間の性(さが)は簡単に変えることはできないのではないでしょうか。実際、遺品を手に取ってみると、これはあの人の土産、これはあのときの記念品、これは娘や孫に似合うのではないかなど、捨てるに捨てられないのが現実です。
物への執着とは、物欲と関係しています。陳列品を眺めながら、今必要がないのに、これは便利だから、健康に良いから、教育に良いから、いつか必要になるだろうからなどの理由をつけて、つい買ってしまうことが多いのではないでしょうか。積ん読の私は、同じ本を二度買ったことは一度や二度ではありません。
断捨離とは、物への執着心と、捨てたいとの思いとの葛藤をどうするかということでしょう。
まず、この物欲から離れるためには、持っている物は粗雑に扱わず、長く使っていくことを当然としつつ、必要な物を必要な量しか絶対に買わないことに徹する行動をとることです。
そのうえで、代々に引き継ぐ物、家族の歴史に関する物、誰もが最低限必要とする物などの基準を明確に決め、基準に該当しない物を躊躇することなく捨てることを実践するのはいかがでしょうか。お金の倹約になるとともに、買うより捨てる量が大きくなれば効果は絶大ではないでしょうか。
平生町人権教育推進協議会
(事務局:町教育委員会)
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