撮影場所:株式会社ジェス山形(山形市)
キーワード:キラリと光る事業承継の形
運動靴と運動着の卸売を行う事業を継ぎ、「足育」をはじめた佐藤千香さんと、家業である眼鏡店を継ぎ、新たに「スポーツ用サングラス」の事業を展開した那須丈雄さんに事業承継への思いをお聞きしました。
■佐藤 千香(さとう ちか)さん(山形市)
1966年生まれ。山辺町出身、山形市在住。幼稚園から高校の運動靴と運動着の卸売を行う「株式会社ジェス山形」でパートタイム勤務をしていたときに、同社の会長から打診を受け、事業を承継。県内で唯一「日本教育シューズ協議会(JES)」のシューズを取り扱うとともに、子どもの足の健全な発達をサポートする「足育」の普及にも努めている。
写真キャプション:足の形や大きさは十人十色。足の幅や長さを正確に測り、それにあった靴を履くことで、外反母趾など足のトラブルを防ぎ、運動能力も向上するという。JESのシューズは、足幅が狭めから広めまで3種類あり、フィットするシューズを選べるのが特徴だそう。
■那須 丈雄(なす たけお)さん(長井市)
1977年生まれ。長井市出身、同市在住。中学生の頃から、商いや家業の眼鏡店「金栄堂」を継ぐことに興味を持つ。都内の高級眼鏡店での勤務を経て、2001年にUターン。スポーツ用サングラス事業を新たに立ち上げた後、3代目として事業を承継。個人や競技に合わせて調整したスポーツ用サングラスは、プロスポーツ選手やトップアスリートにも愛用されている。
写真キャプション:スポーツをはじめとしたアクティブなシーンでの装着を想定したスポーツ用サングラス。軽くしなやかで、色付きや度付きに対応し、個性に溢れたデザインで注目を集めている。3,000人を超える被験者データに基づき、大手企業とともに装着時の色の違和感を抑えたオリジナルレンズも開発した。
◇一時の憂いは変革の種になる
パートタイム勤務から一転、事業を承継した佐藤さん。運動靴と運動着の卸売を行いながら、学校や家庭での「足育」の普及に取り組んでいます。
「当時パートの私が事業承継の打診を受けたときは悩みました。経営の経験もなく、少子化により業界は縮小傾向です。しかし、足に合わない靴を履くことで、外反母趾などの足のトラブルをかかえる子どもが多いことを知り、事業を継いで、足元から健康を考える『足育』を広めたいと思いました」。
佐藤さんは、学校や家庭に足の健康を守る正しい靴の履き方や足のサイズの測り方などを紹介しています。
「子どもに合った靴を選ぶ大切さを知ってもらうことで、足幅を選べる当社商品の販売にもつながると考えたのです」。
一方、中学生の頃から家業の眼鏡店を継ぐことに興味を持っていた那須さん。都内の眼鏡店に勤務後、地元に戻ってきた那須さんは、大きな憂いに直面したそうです。
「街を歩く人影は少なく、事業を継いでも、本当にやっていけるのかと躊躇しました」。
このままでは事業が縮小していくと悩む中、那須さんは、サッカーに打ち込んだ経験からスポーツに特化したサングラスにたどり着きます。
「海外のあるサッカー選手が、緑内障のためにサングラスを掛けてプレーをしていました。当時の日本のスポーツ界ではサングラスはご法度でしたが、海外では当たり前なものでした。それだけに、日本での伸びしろは十分にあると考えたのです」。
当初はスポーツ用サングラスへの反発もありましたが、地道な営業により、テニスや自転車競技などで活躍するアスリートに商品を使ってもらい、商品の調整を重ねることで、利用者の信頼を得て、徐々に売り上げが増えていったそうです。
◇承継することで見えてくる新事業への可能性
那須さんは、山形で事業を承継することへの思いを話します。
「地域のおかげで、代々商売ができ、そして今の自分があります。これからも地域に必要とされる商売を行い、次代につないでいくことが、自分の役割だと思います」。
佐藤さんがうなずいて話します。
「事業を承継することは、先代が築いた事業やお客さまとの信頼関係などの土台を引き継ぐ安心感もあります。一方で、同じことを続けるだけでは業績は維持できず、下降してしまいます。那須さんが、先代の土台を大切にしつつスポーツ分野に挑戦したように、時代にあった自分なりの新しいチャレンジをすることが大切だと思います」。
佐藤さんの言葉に、那須さんが応えます。
「佐藤さんが取り組む『足育』は、普段見落としがちな視点であり、大きな可能性があると思います。商いの環境は時代で大きく変わるわけですから、お互いに新しいことに挑戦していきたいですね」。
承継から始まる新事業は、山形の未来を明るく照らしてくれそうです。
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