■「僕は以前からこれしかないと…」「えっ?」
アルピニスト野口健氏と知事がガチ対談〜富士山登山鉄道構想〜
山梨県は昨年11月から、富士山登山鉄道構想について地元への説明会を始めた。
賛否両論が渦巻く中、やまなしin depth編集部は、世界の山を知り尽くす
野口健さんと長崎幸太郎・山梨県知事の対談を企画した。1時間を超えた議論の行方は――。
やまなしin depthからダイジェスト版でお届けします。
◇富士山は100点満点の山ではない
知事:野口さんの著書『世界遺産にされて富士山は泣いている』(2014年6月出版)を読んだのですが、大変ショックを受けました…。
野口:多くの日本人は〝富士山は100点満点の山だから世界遺産に登録された〞と思っている。でも、本当は条件がついた上での登録で、出された宿題をクリアしなければ取り消しになるんだということを本に書いて伝えたかったんです。そのことを行政もメディアもちゃんと伝えて来なかったと思います。
知事:まったく耳の痛いお話で…。
2013年、富士山が世界遺産に登録された際、イコモス(ユネスコ世界遺産委員会の諮問機関)は今後解決すべき課題として〝三つの宿題〞を出した。その三つとは、
・来訪者数の増加によるオーバーツーリズムの解消
・観光大型バスなどの排気ガスによる環境問題の改善
・信仰の場である富士山の景観をふさわしいものにする
だった。
野口:世界的に有名なヨーロッパの登山家が、「いろんな国の山を登ったけど、富士山がいちばん汚かった」と話していました。登山家の間では、富士山は〝汚い山〞の代名詞になってしまっています。
◇タブーに踏み込んだ知事発言
野口:僕が非常に驚いたのは、長崎知事が「このままでは富士山は危機遺産リストに入ってしまう可能性がある」と発言したことです。僕はそのニュースをヒマラヤに登っているときにスマホで見てびっくりしました。
知事:えっ、どうしてですか。
野口:だって、富士山の世界遺産登録が抹消されるかもしれないという話はタブー中のタブーじゃないですか。僕の知る限り、山梨県の知事でそういう話をされたのは長崎さんが初めてですよ。いままでの知事ではありえない発言!(笑)
知事:世界文化遺産になるということは、「必ず三つの宿題を解消します」という国際的なオブリゲーション(義務)を伴うものです。それなのに、何もやらないというのは〝公約違反〞ですから、なんとかしなければいけませんよね。
野口:僕は全ての山に入山料や入山規制が必要だとは思いません。ですが、富士山は特殊な山なので、国際基準で守っていく必要があるんじゃないでしょうか。
知事:はい、入山料の徴収と入山規制は本格的にやろうと思っています。特に弾丸登山など危険な登山者がいるので、入山規制は喫緊の課題です。
野口:ぜひお願いします。
◇いよいよ登山鉄道構想の話に…
知事:入山規制など〝すぐに取り組まないといけない対策〞を検討するのに加えて、いま私たちは「富士山登山鉄道構想」を提案しています。三つの宿題を解決し、さらに富士山と周辺地域の価値を上げるという、少し長期的な視点に立ったアイデアです。
野口:もちろん知っています。僕は以前、山梨県とは別の組織で、登山鉄道を検討するグループのメンバーだったことがありますから。富士山を守るためには鉄道以外に方法はないと思っていました。
知事:えっ、野口さんも登山鉄道に賛成なんですか?
◇知事室の空気が少し緩み始めた
野口:はい。道路に車両を通したままでは、入山料を取っても来訪者を制限できないじゃないですか。でも登山鉄道なら列車の本数によって来訪者数をコントロールできる。
知事:そうなんです。スバルラインを車が通らなくなれば五合目にある広大な駐車場も必要ないので、コンクリートを埋め戻して、あるべき植生を回復させます。これで、景観問題も解決できます。
野口:五合目は電気と水がないので、トイレやゴミの問題など衛生的にもひどい状態です。これは改善されますか?
知事:登山鉄道構想を具現化するときに、軌道をつくるのと一緒に、電気や水などのインフラも整備するつもりです。
対談を見守っていた県職員が、登山鉄道構想を説明する資料を2人の間に置くと、野口さんは勢いよくページをめくり始めた…
※続きはこちらから(本紙二次元コード参照)
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