■山梨の〝心不全バスター〟をめざして〜山梨大学ハートチームの挑戦〜
山梨大学医学部附属病院 第2外科 講師 加賀 重亜喜
〔心不全パンデミック〕
新型コロナウイルス感染症でよく聞くようになった「パンデミック」。感染症が世界中で爆発的に流行することを意味していますが、日本国内では心不全の患者数がパンデミックのようにさらに増加し続けることが懸念されています。
〔心不全とは〕
心臓が全身に血液を送り出すポンプの役目を果たせない状況を心不全といいます。心不全の原因はさまざまで、あらゆる心臓の病気が最終的に心不全の状態になるといわれています。治療をしなければ悪化をたどり、生命を縮める怖い病気です。心不全患者さんの7割超が75歳以上で、超高齢社会の日本では今後、高齢の心不全患者さんが大幅に増加する「心不全パンデミック」が予想されています。
〔心不全の症状は?〕
疲れやすくなる、動悸がする、息切れがする、足や顔などにむくみが出る、夜間に息苦しくて目をさますなどがあります。
〔心不全の原因の一つの心臓弁膜症とは〕
心臓弁膜症は、心臓にある「弁」がうまく働かない病気です。弁の異常には、弁の開きが悪く血液が流れにくい「狭窄症」と、弁の閉じが悪く逆流する「閉鎖不全症」があります。成人の心臓弁膜症のなかでも患者さんが多いのが大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症です。
〔「ザッザッ」と雑音〕
大動脈弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全症などの心臓弁膜症は「ザッザッ」という雑音が聴診器で聞こえます。そうした異常な音が聞こえたら、循環器科のある病院を紹介してもらいましょう。
〔年だと諦めないで〕
心臓弁膜症は重症になると、外科的手術が勧められます。しかし、手術は開胸して、一度心臓を止めて行なうようなもので、高齢者にはリスクが高くなります。以前は多くの高齢者がこの病気に悩まされ「年だから」という理由で手術を諦めていました。細い管(カテーテル)を用いる「経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI=タビ)」や「経カテーテル僧帽弁修復術(MitraClip=マイトラクリップ)」と呼ばれる最新の弁膜症治療は、体への負担が非常に少なく高齢の患者さんにも安心して提供できます。山梨大学医学部附属病院ではいずれの治療も可能です。
〔手術翌日から歩行〕
TAVIは、人工弁を圧縮して、足の付け根の動脈から心臓まで進め、人工弁は患者の弁を押し広げ、機能し始めます。まさに一瞬にして弁が生まれ変わるのです。手術は1時間程度で、翌日から歩けます。入院日数も1週間。「苦しかった症状がこんなにも簡単に楽になった」と喜ぶ多くの患者さんの声を聞かせていただいています。
〔6年足らずで260例に到達〕
TAVIは既に国内で2万人を超える患者さんに安全に施されています。当院でも、本年10月までに最高齢96歳を含む260例の患者さんに治療し、すべての患者さんで治療に成功しています。
〔山梨の〝心不全バスター〟として〕
超高齢社会にとって、心不全は生活の質を脅かす大敵となります。当院は、多職種の医療スタッフで構成した〝ハートチーム〟で、山梨の心不全バスターとなるべく、心不全治療に力を注いでいます。〝からだへの負担を減らす〟ことを追求した弁膜症治療をこれからも積極的に行うことで、山梨の健康寿命の延伸に貢献したいと考えています。
企画 一般財団法人 里仁会
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