◆虫歯が命に関わるなんて⁉~敗血症のおはなし~
山梨大学医学部附属病院 救急集中治療医学講座 助教 髙三野淳一
「じごくのそうべえ」という絵本をご存知ですか?江戸時代のお話で「歯ぬき師のしかい」という人物が登場します。この「しかい」大鬼に呑み込まれそうになった時、大鬼の虫歯を抜き去ってしまいます。江戸時代でも「虫歯」を「抜く」ことが一般民衆にとって当たり前であったということ、私は感慨深く思います。
虫歯を起こす細菌を白血球などの感染と戦う細胞が発見すると、細菌をやっつけるためさまざまな物質を放出します。ある種の物質は血管を広げ、その場の血流を良くすることで、よりたくさん白血球が集まれるようにし、ある種の物質は細菌の細胞を破壊します。これらの物質は熱や痛みも引き起こします。これらの反応を「炎症」と呼び、細菌と戦うために必要な反応です。虫歯が起こると痛くて腫れて赤くなり熱くなるのはこのためです。細菌をやっつけきれば炎症は自然に治ります。ただし細菌をやっつけきることができなければ膿が溜まります。抜歯されず膿が溜まりつづければ膿の中では細菌がどんどん増え、炎症がどんどん強くなります。感染の場所の血流を良くするために働いていた物質が全身に広がると、全身の血管を広げてしまい血圧は下がります。細菌と戦うための物質が全身に広がると、脳や心臓、肺や腎臓や肝臓などの重要な臓器が壊れてしまいます。本来は体を守るための炎症が、暴走し体全身を蝕んでしまう。この状態を敗血症と呼びます。虫歯が命に関わるの!?と思われるかもしれませんが、今でも当院で2年に一回ほど、虫歯を原因とした敗血症の症例を経験します。治療の原則はそうべえの時代と同じ、歯科の先生に大至急で抜歯と膿を出す手術を行なってもらいます。江戸時代の歯ぬき師たちは、結果的にたくさんの命を救っていたのでしょうね。
救急で受診が必要かどうか、今回のお話が少しでも参考になればと思います。真夜中に喉が痛く、熱が40度もある!病院に駆け込みたくなります。診察した医者は、喉に感染があって、その部分に炎症が起きて痛みと熱が出ている、症状は正常な炎症によるものと考えます。もともと大きな病気がなく、歩けて水が飲めていれば、熱を下げ、痛みをとる対応のみで様子を見ます。ただし、受け答えの反応が鈍い、血圧が普段より低い、呼吸が早いなどの症状がある場合には、炎症が感染した場所にとどまらず、全身に広がっている可能性、つまり敗血症の可能性を考え、採血などの詳しい検査をします。熱や痛みに加えて、このような症状が出ている場合には#7119など救急受診の必要性について相談しましょう。
企画 一般財団法人 里仁会
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