■文化的景観に出会う
~春の伝嗣院~
春風に運ばれた桜の花びらが、並んだ石仏の頭にふわりと舞い降りる。甲府盆地を一望できる市之瀬台地上に建つ曹洞宗大神山伝嗣院(だいしんざんでんしんいん)。こうした日常の風景は、その土地の風土と人々が折りなし育まれたもので、文化的景観とも呼ばれています(※1)。
伝嗣院を訪れると、参道に安置された石仏群と咲き誇る桜との情景に目を奪われます。背後には春霞ただよう甲府盆地。さらにこの地が下宮地神部神社、古くは三輪明神(みわみょうじん)と呼ばれた神社の山宮(※2)であり、その神主であった今沢重貞が仏教に帰依(きえ)し、文亀(ぶんき)元年(一五〇一年)伝嗣院を開いた(※3)歴史を知れば、古くから神仏に祈りを捧げてきた人々の姿が目の前に浮かんできます。また伝嗣院には、文亀元〜2年に写経された大般若経六百巻(※4)が納められており、僧侶が読経し響き合う声も境内から聞こえてきそうです。
目の前の景観と歴史を重ね合わせれば、美しさとともに奥行のあるその土地の魅力が感じられるはずです。市内には四季折々にその姿を変え、豊かな歴史を持つ文化的景観が数多く残されています。四月は春風とともに、文化的景観を楽しむ旅へ。
※1 文化的景観とは人々の生活や生業、地域の風土により形作られた風景そのもので、それを文化財として捉えるもの。また、都市計画においても景観は重要な要素で、良好な景観作りを推進するために、「南アルプス市景観まちづくり条例」と「南アルプス市景観計画」が制定されている
※2 4月に行われている西御幸(にしみゆき)では、もともと神部神社(三輪明神の里宮)から伝嗣院(三輪明神の山宮)へ神輿が行き交う御幸が行われていた。現在の山宮は上宮地八幡神社
※3 明応元年(1492)今沢重貞(しげさだ)が草庵をこの地に結び、元亀元年叔父の第翁挙一を招き開山したと伝えられる
※4 伝嗣院紙本墨書大般若経(でんしいんしほんぼくしょだいはんにゃきょう)県指定文化財大檀那(おおだんな)今沢重貞(しげさだ)によって奉納されたもので明応十年・文亀元年(1501年)の書き付けがのこる。経巻600巻に欠失なく多くの奥書があり、戦国時代の史料として価値が高い
写真/文 文化財課
※詳細は本紙P.14~15をご覧ください。
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