■ワイン特区の概要
令和2年12月、本市は「山梨市ワイン特区」に認定されました。本来、果実酒(以下、ワイン)の製造免許を取得するには、酒税法により「年間6,000リットル」以上製造しなければならず、この要件はワイナリー開設に際し大きなハードルでした。しかし、ワイン特区に認定されたことで「年間2,000リットル」以上に緩和され、小規模ワイナリーの参入が可能になりました。現在、市には2件の小規模ワイナリーが誕生しています。
■山梨ワインの歴史
ワインの原料となるぶどうの栽培は、奈良時代に僧行基(ぎょうき)が甲斐国の東部でぶどう栽培を奨励したことが始まりとされています。平安時代には祝村(現 甲州市勝沼町)の雨宮勘解由(かげゆ)が道端に自生する甲州ぶどうを発見したそうです。
一方、ブドウ酒が作られたのは、明治3年頃。甲府広庭町の山田宥教(ひろのり)と八日町の宅間憲久が共同で醸造を始めたと言われています。その後、明治10年に藤村紫朗県令(県知事)の指示により「山梨県立葡萄酒醸造所」を建設、同年に藤村県令肝いりで「大日本山梨葡萄酒会社」が創設されました。これを機に、県内各地でワイン醸造が相次いで始まっていきました。
■世界の中の山梨ワイン
平成25年に国税庁により、ブドウ酒(ワイン)における地理的表示として「山梨」が指定されました。地理的表示とは、原産地の特徴と結びついた特有の品質や高い評価を備えている産品を示すものです。
この表示によって、気軽なテーブルワインではなく、より価値の高いワインとしての流通が可能になりました。さらに、WTO(世界貿易機関)加盟国では、地理的表示を知的所有権と位置づけており、ワイン産地「山梨」は国際的に保護されていると言えます。
世界では「ボルドー」「ブルゴーニュ」などが地理的表示の代表例ですが、「山梨」もこれらの産地に劣らない品質を実現できている証なのです。
出典:山梨県ワイン酒造組合
■ワイン特区を活用した醸造家インタビュー
◆安蔵正子(あんぞうまさこ)さん(万力)
◇ワインづくりを始めたきっかけ
鹿児島県に住んでいた高校時代に、焼酎の工場を見学した際、床に埋まっている甕(かめ)で焼酎が発酵する様子を見て、微生物の力で自然にブクブクと泡立っていることに感動し、醸造に興味を持つようになりました。両親が山梨県出身だったこともあり、山梨にはワインを学べる学校があることを聞いて、この道に進むことを決意しました。
◇ワインづくりへのこだわり
ワインの出来はブドウの出来に大きく左右されるので、「こだわったブドウでワインをつくる」ことを大切にするため自分でブドウを作るようになりました。一方で効率性も重視していて、品種選びや剪定等の技術でなるべく手間のかからないブドウ栽培をすることで「楽しみながらワインをつくる」ことを忘れないよう心がけています。
◇ワイナリー開設で大変だったこと
私が目指すワインづくりを実現するには、市がワイン特区を取得することが必要だったので、ワインの魅力やワインの特区の必要性を伝えることが大変でした。
また、販路開拓の難しさを感じており、最近は「酒離れ」という言葉もある中で、ワインを好まれる方は「物語」を重視する傾向にあります。この点をしっかりアピールしていかないといけないと思っています。
◇今後の展望
現在、ブドウ園が1ヘクタール程度ありますが、まだ成園になっていない畑もあるので、まずは全ての畑でブドウが採れるようになることが目標です。また、自分自身の楽しみがなくなってしまうと良いワインもできないと思うので、真剣に楽しみながらワインをつくっていきたいです。
■山梨市はワインの醸造に最適な土地
◇メリット(1) 良好な日当たり・景観
近隣の地域では北向きの斜面も多い中、山梨市は南向きの斜面が多く、ブドウ栽培の重要なポイントである「日当たり」と「水はけ」の良さが揃っています。また、富士山が見えるなど景観が良い場所も多く、その土地の特色「テロワール」を感じながらワインを飲める点も魅力の1つです。
*安蔵さんは、斜面に畑が広がる万力の風景がフランス・ブルゴーニュ地方の銘醸畑コート・ドールにも似ていることから「山梨市のコート・ドール」と呼んでいます。
◇メリット(2) 多彩な品種のブドウ
山梨のワインといえば、甲州やベリーAを想像する人が多いと思いますが、山梨市は近隣地域に比べて専門品種の栽培が盛んなことも特徴です。そのため、個性的なワインが多くあります。牧丘地域では、高級ワイン用のブドウが多く作られている傾向があり、山梨地域ではカジュアルワイン用のブドウが多く作られる傾向があります。また、山梨市は生食用のブドウ栽培のイメージがありますが、近年は醸造用ブドウの栽培も増えてきています。
◇メリット(3) ワイン特区活用の実績
市では、令和2年にワイン特区の認定を受けてから、特区を活用して開設したワイナリーがすでに2か所あります。開設した人の経歴も様々で、元々ワインづくりを専門に行っていた人もいれば、生食用ブドウを栽培しながら、醸造用ブドウも栽培しワインづくりを行っている人もいます。
また、特区を活用した小規模ワイナリーに留まらず、中規模以上のワイナリーも10か所以上あり、山梨市は、県内のワイン文化の一翼を担う地域となっています。
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