■「孤高の植物学者」
第十一話 空論より実学
三宅勝義さん(東野)
▽第四の功績「情熱的な教育者」
「矯木枯根」、正式な読み方は分かりませんが、「きょうぼくここん」と読むのでしょうか。意味は、無理に枝葉を矯正しすぎると根っこが枯れてしまうことだと推測されます。
教育者の三好学は、「矯木枯根」という文言を使い、教師が強制しすぎると生徒の意欲がそがれることを授業日誌の中に記しています。この日誌は、日々の授業の実践記録で、学が明治十二、十三年に書き遺(のこ)したものです。当時、個別指導が主だった授業方法を集団指導に替え、しかも「教え込む」ことが主流の時代に、教師が喋り過ぎることをきつく戒めています。現在も、教師の出過ぎる授業は生徒の意欲をそぐといわれています。学校教育が始まって10年にもならないこの時期に、学は既にそのことを指摘しているのです。
授業日誌以外にも、「生理小学」という理科の教科書や「土岐郡史略」と題した地理の教科書、「小学校修身読本」という修身の教科書を執筆し授業に役立てるなど、教育に対して情熱的で意欲的、革新的でした。
「桜の博士」「近代植物学の開祖」「自然保護の先駆者」に加え、三好学の四つ目の功績として、「情熱的な教育者」という呼び名も忘れてはいけません。
ところで、このような偉大な功績を生み出す源は何なのか。信念とは一体何なのか。おそらくその一つは、学の学問への姿勢に見ることができると思います。学が東京帝国大学の予備門を終えて研究の専門を決める時、次のような文章を遺しています。(詳細は、本紙をご覧ください。)
難しい文章ですが、訳すと「学ぶということは、実際に役立つことを習得し、実行することであり、書物などで知り得た知識を吹聴することではない」となります。つまり学は「空論」より「実学」を大切にしました。多くの偉業は、この明確な信念に支えられていたと思います。
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