■「難聴と認知症」
耳鼻咽喉科 統轄副院長 佐野啓介(さのけいすけ)
「難聴と認知症はとても深く関連している」最近有名な海外の医学雑誌にて報告され、私たち耳鼻科咽喉科医の間でも話題になっています。
難聴には加齢や騒音などによって引き起こされ、内耳や聴神経が障がいされる感音性難聴、耳垢や中耳炎などにより音を伝える機能が障がいされる伝音性難聴、両方の難聴が混ざった状態の混合性難聴の3つに分類されます。耳が痛くて聞こえにくくなる急性中耳炎に罹患(りかん)された方は多いかと思いますが、中耳炎の治療をすることで難聴も元通りに治ることが多いです。なかには、長年難聴を自覚されていた方が受診され、大きな耳垢を取り除くことですっかり良くなったと喜んで帰られる方もいらっしゃいます。しかし年齢とともに徐々に進行する加齢性難聴は治療による改善が期待できないため、補聴器などの装用が必要となる場合が多くあります。
加齢性難聴の特徴は、50から60代頃より徐々に悪化を認めるため、本人も気が付きにくい点があります。高音から聞こえにくくなり、音は聞こえても言葉の内容が分かりにくいといった特徴があります。難聴の問題点はコミュニケーション障がいにより人間らしい生活や人生を楽しむ重要な役割が失われること。車やサイレンの音などが聞こえなくて危険を生じること。そして、最近認知症になる危険性が高くなるとの結果が示されました。
世界的に有名な医学誌「ランセット」に最近認知症の発症危険因子について報告がなされ、認知症予防に難聴対策が重要であることが示されました。認知症発症の危険性を高める9つの因子が示され、高血圧、肥満、喫煙、運動不足、糖尿病などとともに難聴の関与が認められました。特にそれぞれの発症因子のなかで、最も高い関連性を示したのが難聴で(9%)、補聴器などを装着した場合は、認知機能低下が軽減される可能性が示されました。
補聴器には挿耳型、耳掛け型、ポケット型の3つのタイプがあり、扱いやすさ、生活習慣などから選択します。補聴器は医療器具で、雑音を抑え、言葉をはっきりと増幅させる機能があります。慣れるのに多少時間がかかる場合もありますが、認定補聴器技能者により生活環境に合わせ細かく調整されます。当科でも月に5回の補聴器外来にて補聴器相談医による診療と、認定補聴器技能者による調整を行っています。また、補聴器を装用しても言葉の聞き取りが改善しない場合には成人に対する人工内耳の適応基準も拡大しており、難聴の程度、言葉の聞き取りを検査した上で手術をお勧めする場合もあります。島根大学にて手術を受けられた方も、言葉の聞き取りがずいぶん良くなったと喜んでいただいています。最近少し会話やテレビの内容が聞き取りにくくなった、聞き返すことが多くなった、とお感じの方は早めに耳鼻咽喉科に相談しましょう。
◯加齢性難聴の初期症状
・テレビの音が大きくなった
・耳鳴り
・電子音が聞こえない
・話す声が大きくなった
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