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特集 継承するたたらの心

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広島県庄原市

本市を含む中国山地は、かつて「たたら製鉄」によって栄えた一大工業地帯でした。
たたらは、長年にわたって地域の産業を支え、政治・経済・文化など、人々の暮らしに大きな影響を与えてきました。
本市では、たたら製鉄の技と心を現代に伝えようと、国営備北丘陵公園で体験会が開催されています。同公園の開園時から始まったこの体験会は本年、第30回の節目を迎えます。
この節目に合わせ、本市とたたら製鉄の関わりについて紹介します。

■たたら製鉄とは
たたら製鉄は、粘土で築いた炉で大量の木炭を燃焼させ、砂鉄を投じ、化学反応を起こさせることで純度の高い鉄を作り出す製鉄法です。
西アジアを起源とする製鉄が古墳時代に日本に伝来し、独自の進化を遂げてたたら製鉄となりました。
良質な砂鉄と、木炭の原料となる広大な森林に恵まれた中国山地で特に発展し、最盛期の明治初期には全国の8~9割のシェアを誇りました。
また「たたら」は、漢字で「踏鞴」と書き、炉に空気を送り込む時に使われる鞴(ふいご)に由来します。

■本市とたたらの関係
たたらは、明治時代にその役目を西洋式の製鉄に明け渡すまで繁栄を極め、西城町、東城町は「鉄(くろがね)どころ」とも呼ばれ、町の発展に製鉄業が大きく寄与しました。
江戸時代後期に作られた広島藩の地誌「芸藩通志(げいはんつうし)」にも、本市の大部分の地域で、製鉄や鍛冶(かじ)、炭焼きなどが営まれたと書かれています。
市内には製鉄遺跡や、山を掘り崩して砂鉄を採った「鉄穴流(かんななが)し」の遺構などが残っており、時悠館や比和自然科学博物館などの博物館ではこれらを含め、たたらの歴史を学ぶことができます。

■たたら製鉄と日本刀
その技術の高さと美しさから、究極の美術品とも評される日本刀。材料として欠かせないのが「玉鋼(たまはがね)」です。
玉鋼は、非常に純度の高い鉄で、たたら以外の製鉄法で作ることができません。
現在、たたらによる製鉄を行っている団体は、世界で公益財団法人日本美術刀剣保存協会(日刀保(にっとうほ))が運営する「日刀保たたら」(所在地…島根県仁多郡奥出雲町)のみです。
日刀保たたらは、文化財保護法の選定保存技術に認定されており、ここで生産された玉鋼は、全国の刀匠に広く提供されています。
本市は歴史的に日本刀の生産地ではありませんが、日本刀名匠で無鑑査(むかんさ)※の資格を有する久保善博(くぼよしひろ)刀匠が市内に在住しています。
また、外国人として初めて刀匠の資格を取得したジョハン・ロイトヴィラー刀匠は、久保刀匠の弟子として本市で修業し、本年4月から国営備北丘陵公園の工房で体験指導などを行う予定です。
※無鑑査…芸術分野で、過去の実績から、特定の展覧会などに審査・監査なしで出品できると認められること。刀剣の分野では狭き門で「抜群の技量が認められる者」とされており、現代刀匠の中で最高位に位置付けられる。

■古代たたら鉄づくり体験
▽体験会の始まり
最初の体験会は、平成7年4月の国営備北丘陵公園開園時に、開園記念行事の一環として行われました。
公園の整備中に行われた内覧会で「ここでたたらをやってみたい」という声が上がり、有志が「さとやま古代たたら倶楽部(くらぶ)」を立ち上げ、日刀保たたらに協力を依頼し、関係者と地域が一体となり実現させました。以来、ほぼ毎年実施されています。

▽体験会の流れ
毎年、2日間の日程で次の作業を体験します。

(1)築炉(ちくろ)・炉乾燥(ろかんそう)
粘土をこねて作ったブロックを重ね、炉を築き、火をたいて乾燥させます。

(2)炭出し・炭割り
公園内の炭焼き窯から、木炭を取り出し、使いやすい大きさに割ります。

(3)操業・ふいご送風
木炭を炉に入れて温度を上げ、砂鉄を投入して操業が始まります。送風は、主に機械で行いますが、昔ながらの足踏み、手押しのふいご送風の体験も行います。

(4)鉧(けら)出し
炉を崩して、出来上がった鉄の塊「鉧」を取り出します。

▽令和6年度の体験会
とき:5月11日(土)~12日(日)

問い合わせ:備北公園管理センター
【電話】0824-72-7000

■たたらの心~継承者からのメッセージ~
日本で製鉄が始まった古墳時代のたたら製鉄を復元し、ものづくりの原点である鉄づくりを皆さんに認識してもらいたいという思いで、庄原市の古代たたら鉄づくり体験に協力しています。
鉄は人類の文化・文明の発展に最も貢献してきた資源です。
鉄を人の手で生み出す技に触れてもらうことで、たくさんの人がものづくりへの興味を持ってほしいです。
今後も子どもや若い世代など、たくさんの人に参加してもらい、たたら製鉄を盛り上げてもらいたいです。

日刀保たたら 村下(むらげ)
国選定保存技術保持者 木原明(きはらあきら)さん
村下…たたら製鉄の技師長

▽さとやま古代たたら倶楽部
三代目会長 塩本一平(しおもといっぺい)さん
この体験会は、先人の鉄づくりの営みを体験できる貴重なイベントです。
鉄を作るのは本当に大変な作業で、みんなの力を合わせなければなりません。自然界から得た材料を使い、一昼夜を通して炎と格闘した末、灼熱の中から真っ赤な鉄の塊が出てきます。この体験を多くの人と共にできることは、何にも代えがたい感動があります。
この体験会は、日刀保たたらをはじめ、多くの人の協力で成り立っています。これまで支えていただいた皆さんに深く敬意と感謝を表します。
30回目の節目を迎えますが、さらに輪を広げていきたいと思います。ぜひご参加ください。

▽私は、たたら製鉄の研究を30年以上続けてきました。私の研究では、不純物と考えられてきた砂鉄の中の酸化チタンが、鉄の性質を左右する重要な働きをしていたことを明らかにしています。また先人はこれを見抜き、鉄を作り分けていたことも分かっています。
たたらの技術には、先人の深い洞察力と知恵が息づいています。ここにしかない、非常に高い文化的価値を持つ中国山地のたたら製鉄は、世界遺産に値すると確信しています。たたらを体験できる機会があることは、この先庄原市の価値を高めることにつながるでしょう。
全日本刀匠会 副会長
久保善博(くぼよしひろ)さん

問合せ:商工観光課観光振興係
【電話】0824-73-1179

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