■第71回 センス・オブ・ワンダー
生(あ)れいでて/舞ふ蝸牛(ででむし)の/触角(つの)のごと/しづくの音に/驚かむ/風の光に/ほめくべし/花も匂はゞ/酔ひしれむ
これは、安城高等女学校で教師をしていた新美南吉が生徒詩集に寄せた詩「一年詩集の序」です。「ほめく」とは熱気を帯びるということ。生まれたばかりのデンデンムシの触角のように、わずかな音や風、熱、香りでも敏感に感じとり、その驚き喜びを詩に詠おうと呼び掛けています。
こうした自然界の不思議さや神秘さに目を見はる感性を、アメリカの生物学者で作家のレイチェル・カーソン(1907~1964)は「センス・オブ・ワンダー」と呼びました。見るもの触れるものすべてが初めての子どもたちが豊かに備えているこの感性を、大人になっても失わない人たちがいます。南吉もまた、センス・オブ・ワンダーを失わず、作品に表現した作家でした。
たとえば、童話「里の春、山の春」「うまやのそばのなたね」には、幼い者が初めての春を体感する驚きと喜びが描かれています。春は南吉がもっとも愛した季節です。日記には五感を通して春の訪れを感じ取る様子が書かれています。
春はそれだけを抽き出すことが出来ない。道や草や空気と一しょになっている。君が気持のよい空気をうんと吸い込んだなら、君は即ち春を吸いこんだのだ。君が柔かい草を踏んだのなら即ち春をさわったのだ。(1940年3月21日)
さあ、今年も春が来ました。新美南吉記念館では企画展「南吉のセンス・オブ・ワンダー」を開催します(4月13日(土)~6月30日(日))。春の南吉の里に遊びに来てください。
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