■新城市の人工林の齢級構成
スギ・ヒノキの人工林の多くは戦後の拡大造林期※に植えられたものです。50年以上が経過した現在、これらの人工林は伐採が可能な時期を迎えています。
※拡大造林とは、広葉樹などの天然林を伐採した跡地に人工造林を行うことで、戦後の復興のために急増した木材需要に応えるために進められた林業政策です。
出典:第2次新城市森づくり計画
■横浜ゴム新城工場 千年の杜
JR飯田線野田城駅横にある木々に囲まれた工場があります。横浜ゴム(株)新城工場です。
◇千年の杜(もり)の推進〜ひとつのドングリから〜
横浜ゴムは、自動車のタイヤを主に生産しています。タイヤの原料であるゴムを中心に自然の恩恵を受けて事業活動を行っています。これは、自然への負担をかけている事実でもあるそうです。
この自然への負担を最小限にすること、さらに工場自体を環境に良い影響を与えるものにしたいという想いから、2007年に「千年の杜」が始まりました。それは、会社創立100周年に当たる2017年までに、その地域の植生を知り、そこから採取した種子(ドングリ)から様々な種類の苗木を育苗し、国内外の工場で50万本を植える活動です。
※千年の杜と宮脇教授
千年の杜には一人の研究者が携わっています。故・宮脇昭(みやわきあきら)氏(横浜国立大学教授)です。宮脇氏は、その地域を構成している多数の種類の樹種を混ぜて植樹する混植・密植型植樹を提唱し、活動されていました。
そこで新城工場職員にもドングリ集めが呼びかけられました。大人がドングリを集めるということで、当初は戸惑いもあったようですが、まずは数人で約100個のドングリを集め活動をスタートしました。その後、工場内で活動の輪が広がっていき、現在では1チーム25人体制の3チームが継続的に活動しています。
活動の輪が広がるにつれて、一つの課題が出てきたそうです。それは、ドングリの選別作業。職員の皆さんが頑張って採取してきたドングリは年々増えましたが、そのドングリを種類毎に一つずつ丁寧に選別しているため、かなりの時間を必要としているとのことです。
ただこれは、活動の輪が広がった証拠でもあるので、とても嬉しい課題だと笑いながら語ってくれました。
◇その土地のドングリを集める
ドングリ集めにもこだわりがあり、潜在自然植生の樹種(ドングリ)を集めていました。潜在自然植生とは、その土地に自然に形成される植生のことで、その土地本来の木を植樹されるためには大切なことです。
そのため、自然の森が残っている鎮守の森である「地元の神社」からドングリを採取させてもらうこともあるそうです。
その様な努力の積み重ねにより、今では工場敷地内の一角に、この地域で採取されたドングリ(カシなど)から発芽した、多くの苗木が栽培されていました。もちろん、大切な苗木が枯れないように水やりを職員が行っていますので、根気がいる作業です。
◇地域との繋がりを大切に
植樹は工場内の敷地だけではなく、市内小学校などでも地域の方々と一緒になって行っています。
植樹の際には、根元を乾燥から守るために、稲わらを使うそうですが、その稲わらは「四谷の千枚田」のものを利用しているとのことです。その繋がりもあり、特定外来種の雑草(アメリカセンダングサなど)を根元から引き抜いて除草する活動を「四谷の千枚田」で実施しているとのことで、活動の広がりを感じることができました。
インタビューの中で印象に残ったのが、地域の繋がりを大切にし、この活動を継続していきたいという想いがインタビューに応じてくれた3人から滲み出ていました。それは、自分達の代だけでなく、子や孫、そして遠い未来の代に少しでも良い環境を引き継ぎたいという想いの現れであるように感じられました。
2007年にはじめた千年の杜。国内外の工場で2021年度末までに育苗し植樹した苗木は62.8万本。また、様々な団体に提供した苗木は46.2万本となり、合わせて109万本となりました。
今後も継続的に推進し、130万本を目標に活動を継続していくそうです。
■インタビューを通して
2015年9月の国連サミットにおいてSDGs(持続可能な開発目標)が提唱され、「持続可能な森林の経営」を含む17の目標と169のターゲットが定められました。また、国では、2050年までに温室効果ガスの排出を全体として実質ゼロを目指すことを示しました。現在、脱炭素社会に向けて森林の役割に期待が高まっています。
森林や植物は、地球の炭素循環の担い手の一つです。短期的な活動で大きな成果が出るものではありません。5年、10年、いや30年、50年と継続して活動していくことが求められます。新城市のこの恵まれた自然(森林)を後世に残していくために、大勢の人が自然環境に関心を持ち、今何をすべきかを考え、一人一人が小さな活動をこつこつと続けていくことが大切ではないでしょうか。
◇編集後記
自然観察に興味のある一人として、今回の取材はとても興味のある内容でした。より良い種子・苗木を求め研究を続けてみえる愛知県森林・林業技術センターの方々、生態系に影響を与えないように地元の種にこだわり、種から苗木をそだて、地域の緑化活動などに苗木の提供を行っている横浜ゴムの方々。
これら活動の積み重ねがこれからも地域の森林(自然)を守っていくのだと感じました。
市民編集委員が取材・編集しました
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