■食道癌(がん)
津島市民病院 消化器内科医師
安田 桂(やすだ かつら)
◇食道のはたらき
食道は、口から胃に食べ物を運ぶための管状の器官です。消化器系の一部であり、主に飲食物の通過を助ける役割を果たしています。
食道のはたらきとして、食べ物の輸送、逆流防止があります。食べ物や液体が食道に入ると、食道の蠕動(ぜんどう)運動(波状の筋収縮)が始まり、食べ物を胃に向かって押し進めます。蠕動運動とは、筋層の収縮と弛緩によって行われ、これにより、食べ物が重力に逆らっても胃に向かって運ばれます。食道下部には下部食道括約筋が存在し、食べ物が胃に到達すると収縮して胃内容物の逆流を防ぎます。
◇食道癌とは
食道癌は、食道の内側の粘膜から発生する悪性腫瘍(癌)のことです。食道癌には主に2つのタイプがあり、扁平上皮癌とバレット腺癌に分けられます。日本では扁平上皮癌が多く見られますが、欧米ではバレット腺癌の発生率が増加しています。今回は主に、扁平上皮癌について説明します。
食道癌は男女比6:1と男性に多く発症し、年齢は60~70歳代に多いです。発症するリスクとして、喫煙、飲酒、食事、肥満などが挙げられます。特に喫煙、飲酒による影響が大きく、男性に多く発症することが予想されます。食事では、高塩分の食事、熱い飲食物、保存料や防腐剤の多い食品が癌のリスクと言われています。初期段階では症状が出にくいですが、進行するにつれて、しみる感じがする、飲み込みにくい、体重が減った、胸が痛い、声がかすれるなどの症状が現れることがあります。
◇診断
診断をするためには、胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)を行う必要があります。食道内を観察し、病変を認めた場合は組織の一部を採取し、顕微鏡の検査(病理検査)によって診断します。胃カメラの際、ルゴール(ヨード)を食道内で散布することで、食道癌をより発見しやすくなります。正常の食道粘膜はルゴールで染まるのに対し、食道癌は染まらないという性質を利用した検査です。
バリウム検査(上部消化管造影検査)では、食道の形を客観的に評価することができ、病変の位置や長さ、狭窄の程度を評価します。その他、CT検査やPET-CT検査を行うことで、食道周囲の臓器への浸潤の評価、他の臓器やリンパ節への転帰の評価を行うことができます。
◇治療
早期癌の場合、内視鏡にて切除することが可能です。内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)と言われる処置を行い、1週間程度の入院にて治療することができます。進行癌の場合、遠隔転移がなければ、手術にて切除することができます。手術が適応とならない場合、化学療法(抗がん剤)を行うことが検討されます。化学療法を行う場合、薬が何種類かあり、状況に合わせて選択していきます。従来一般的に行われている化学療法はFP(5-FU+CDDP)療法といわれるもので、4週間ごとに入院して薬を投与することになります。
また、化学療法に合わせる形で放射線療法を行うこともあります。1カ月程度、毎日通院してもらい、食道へ放射線を照射することで根治を目指します。
◇さいごに
食道癌の最大のリスク因子は喫煙と飲酒です。禁煙と節酒はもちろんですが、普段から規則正しく、栄養バランスのよい食事を心がけ、野菜や果物を多めに摂るなど、食道癌のリスクを避けるような生活を心がけてください。
食道癌の検査は健康診断の必須項目ではないため、定期的に受けていない人も多いと思います。食道癌は無症状のまま進行して、転移しやすい癌でもあります。検診を受ける際は、胃カメラやバリウム検査を任意で追加し、早期発見に努めてください。
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