■全身麻酔後に起こる吐き気について
津島市民病院 麻酔科副部長
和田(わだ)なつ美(み)
全身麻酔での手術後に発生する悪心・嘔吐のことをPONV(postoperative nausea and vomiting)と呼び、手術・麻酔に伴う合併症として、術後痛に次いで頻度が高く、20~30%の割合で起こるとされています。患者さんにとっては非常に不快で苦痛を伴う合併症であるばかりでなく、早期離床を妨げる原因となるため、麻酔科医としてはできる限り避けたい合併症の1つです。
全身麻酔で使用する薬剤の中でPONVの原因となる薬剤としては、鎮静薬(眠らせるための薬)として使用する、揮発性吸入麻酔薬(いわゆるガスの麻酔薬)とオピオイド(痛み止めのために使用する麻薬)の2種類があります。
PONVを起こす患者さん側の危険因子として、(1)女性、(2)若年(50歳未満)、(3)非喫煙者、(4)乗り物酔いをしやすい、(5)以前にPONVを経験したことがある、というものがあります。傷口の痛み止めのために、手術後も継続してオピオイドを使う場合、さらにPONVを起こしやすくなります。また複数の危険因子があるほどPONVを起こすリスクが上昇します。例えば、若い女性が大腸癌の手術を受けるとき、この方がタバコを吸わなくて乗り物酔いしやすい方だった場合、約80%の確率でPONVが起こるとされています。逆に、ヘビースモーカーの高齢男性が全身麻酔の手術を受けられる場合には、PONVが起こることはほとんどありません(喫煙は肺炎、痰詰まり、心臓の合併症などの周術期のリスクが増えるため、手術前は必ず禁煙しましょう。最低8週間以上の禁煙が望ましいです)。
PONVが起きてしまった場合、胃内への血液の垂れ込み(鼻の手術を行った場合)や腸閉塞(腹部手術の場合)、頭蓋内圧亢進(こうしん)(頭の手術の場合)、脱水や低血圧、低血糖、電解質異常など、ほかに吐き気を起こす原因が無いことを確認し、制吐薬で対処していきます。術後にオピオイドを持続投与している場合には、量を減らしたり、中止したりします。
PONVを起こさないための対策としては、揮発性吸入麻酔薬を使用せずに手術中も点滴から投与する麻酔薬を使用することや、オピオイドの使用量を減らすために硬膜外麻酔や神経ブロックなどの他の鎮痛法を併用すること、手術中から複数の制吐薬を使用しておくことなどがあります。もし、ご自身が乗り物酔いしやすいなど、PONVのリスクがありそうな場合には、手術前に麻酔科医や手術室看護師が診察に伺ったときにそのことを伝えていただければ、できる限りの対策をさせていただきます。
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