■手指のしびれ・痛みと手根管症候群について
津島市民病院 整形外科部長
中川泰伸(なかがわやすのぶ)
◇はじめに
はじめまして。4月より津島市民病院整形外科に赴任した中川と申します。みなさんは「手根管症候群」という病気をご存じでしょうか。今回は、自身の専門である手の外科領域において、手指のしびれ・痛みの原因として比較的頻度の高い手根管症候群についてのお話をさせて頂きます。
◇病気の原因
人が手を使うとき、脳から首→脇→肘→手首→指先に向かって筋肉を動かす命令を運動神経が伝え、物を触った感触を指先→手首→肘→脇→首から脳へと感覚神経を通じて送り返します。手首にある「手根管」という部分には、指先に向かう神経(「正中神経」といいます)と共に、指を動かす筋・腱が通る、トンネルのような構造になっています。
手根管を走る腱が腫れたり、加齢と共に周囲の骨や靭帯が厚くなったりすることで、トンネルの中が狭くなると、正中神経が圧迫され、手の症状が出現・悪化します。手根管症候群は一般的に40歳から70歳の中年から高齢の方に発症しますが、他にも腱や周囲の組織が腫れやすくなる妊婦さん、糖尿病の方、手首のけがをした人などにも起こることがあります。
◇症状
正中神経が圧迫されると、親指、人差し指、中指、薬指の一部の感覚神経が障害され、しびれや痛みが現れます。また、親指を動かす運動神経も徐々に麻痺するため、親指の付け根の筋肉が徐々に痩せてしまいます。自覚症状として「指がしびれている」「つまんでいた物をよく落とすようになった」「ボタンをかけることが下手になった」などが現れます。手根管症候群の中でも特徴的な症状である「夜間に手が痛んで目が覚めることがある」「朝起きた時に一番ひどい手の痛み、しびれがある」「長時間、同じ姿勢でいるとしびれが悪化し、手を振ると痛みが治まる」の有無は整形外科の問診で重視して聞いています。
◇診断
診察では、手のしびれの範囲と、親指の付け根の筋肉がどの程度痩せているか、Phalentes(t手根管のストレステスト)などを行います。他に脳梗塞、頸椎疾患(首の病気)、他の神経疾患が隠れていないかを評価します。画像診断としては超音波検査(エコー)による正中神経の圧迫や腫れなどを確認します。神経伝導速度検査では実際の神経の流れ(速度)を見て重症度を評価します。
◇治療方法
保存的な治療:軽症の患者さんには、お薬や手首の固定(装具療法)を行い、痛みを和らげます。正中神経の周りの腫れを抑える目的で、エコー下にステロイド注射を行うことがあります。
手術治療:夜間のしびれ症状が強い方、親指の付け根の筋肉が痩せてきた方の選択肢となります。実際の手術では手のひらを3cm程度切り、手根管のトンネルを開け、圧迫を受けた正中神経を周囲の組織から剥がします。拡大鏡を使用し、大事な神経、血管、腱を傷つけないように丁寧な処置を心がけています。
◇よく寄せられる質問
Q.手術後に手は使えますか?
A.手術の後はギプス固定などの必要はなく、手指を使っていただけますが、抜糸までの2週間程度は水仕事を控えていただいています。ご自身の生活のタイミングで手術時期を決めていただいています。
Q.手の症状は良くなりますか?
A.程度には個人差がありますが、夜間の痛みについては、比較的術後早期に回復する方が多いです。神経が長期間圧迫されてきた方ほど、手のしびれや親指の筋力の回復に時間がかかります。数カ月から1年程度で徐々に軽快してくる症状であることを説明しています。
◇おわりに
手指のしびれ・痛みでお悩みの際には、お気軽にご相談ください。
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