新年を迎え、冬もいよいよ最終章の寒(かん)に至ります。「また寒ですか~?寒の早朝に道端を歩いていると、靴の下の霜柱(しもばしら)がザクザクッと鳴って、これを聞くと身震いします!」そうですか?残念ながら寒を通らずに春を迎えることができませんから、あと少し頑張って寒を乗り切りましょうね。ところで、ここに登場した霜柱とは地面の下の水分が、土の中で柱状に凍ったものですが、シモバシラというお花をご存じですか?「知らないな~、寒の時期に咲くのかね?」いえ、シモバシラの開花時期は秋分から晩秋です。「うん?で、どうして名前がシモバシラなわけ?」はい、それでは今回はシモバシラについてお話させていただきます。
シモバシラはシソ科コリンソニア属に分類される多年草で、本州南部から九州の低い山が自生地です。文政8年出版の本草書『物品識名拾遺(ぶっぴんしきめいしゅうい)(水谷豊文)(みずたにとよぶみ)』巻坤(かんこん)には「シモバシラ(別名)ユキヨセサウ」と記載されているので、江戸時代後期にはこの名で呼ばれていたようです。
シモバシラの花は極淡い紫色の小輪で、これを10月頃、側枝に沢山咲かせます。これはこれで観賞性があるのですが、これだけではシモバシラの名を冠するにはふさわしくありませんね?シモバシラは、花が終わり冬が深まると、他の多年草同様、根は地中で生きたまま、地上部が枯れこみます。枯れた葉と側枝の大部分は落下しますが、主軸の茎は残ります。普通枯れ残った茎の導管は詰まって水を吸い上げることはありません。しかしシモバシラの茎は枯れてからも水を吸い上げる構造が残っており、根から水が上がっていき、寒の冷気でこれが茎の中で凍り吹き出し、あたかも茎の一部が霜で覆われたような姿になり、これこそが、シモバシラという名で人に知られる由縁なわけです!「ワー面白そう!見てみた~い。」でしょう?特に寒い日の朝なら、植物園内の沿道などで見ることができると思います。あ、そうそう。今はコリンソニア属に併合されてしまいましたが、以前はシモバシラ属という属が存在しました。その学名はKeiskeaで、ケイスケ、つまり伊藤圭介(いとうけいすけ)に敬意を表(ひょう)してつけられたものです。伊藤圭介こそは日本の植物学界に偉大な業績を残した(愛知県の)人です。詳しくは東山動植物園にある伊藤圭介記念室で紹介されているので、寒い中、勇気を振り絞って同植物園までシモバシラ見物に出かけてみましょう!
執筆 愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田晶彦
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