■ー癌という病気を探る その1ー
加茂病院 富所 隆
小生が初めてその映画を見たのは、確か大学生のことだったと記憶しています。『生きる』は、1952年に公開された映画で、監督は黒澤明、主演は志村喬。無為に日々を過ごしていた市役所の課長が、胃がんで余命幾ばくもないことを知り、己の「生きる」意味を求め、市民公園の整備に全力で取り組む姿が描かれています。
当時、がんという病気は罹患すればほぼ助からない不治の病と恐れられており、しかも映画のように働き盛りの年齢に多く発症していました。なかでも、がんと言えば多くの場合胃がんがその代表格としてイメージされていました。実際1958年の統計では、全がんの年間死亡者数が87,895名で、そのうち46.4%にあたる40,749名が胃がんで亡くなられていました。それが2021年度の統計では胃がんの占める割合は10.9%にまで減少しています。ただ、実数は減少しているわけでなく、相変わらず年間4万人余りの方が亡くなられており、肺がん・大腸がん・すい臓がんなど他のがんが急増してきていることがその理由です。
さて、近年、がんの原因はかなり解明されてきており、がんの予防が積極的に行われる時代になって来ました。例えば、肺がん予防を目的とする喫煙対策、肝がんに対しては、B型・C型肝炎ウィルスの駆除、子宮頸がんの予防のためのワクチン接種などが上げられます。日本人に最も多い胃がんはピロリ菌との関係が明らかにされてきました。発がんリスクの低減を目的に除菌を行った方も増えてきています。ピロリ菌の感染率は高齢者で高い(70歳代で約60%)ことは良く知られています。一方で、若年者では感染している人の割合は極めて低く、長岡市内の中学生では3%前後となっています。近い将来、胃がんが珍しい病気になるかもしれません。
加茂養生訓では、これから数回にわたり、各種のがん予防に焦点を当ててお話いたします。
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