認知症は、高齢者だけがなるものだと思っていませんか。実は、65歳未満で発症する場合もあり、若年性認知症と呼ばれています。
今号では、若年性認知症の妻を介護しながら、若年認知症家族会「陽だまりの輪」の会長として区内で活動する三川一夫さんを取材しました。
■若年認知症家族会
陽だまりの輪
会長 三川一夫さん
◇始まりは、妻が55歳の時
妻は、ピアニストでした。ある時、これまで通りに演奏ができなくなりました。その異変は、本人だけでなく、子どもたちも感じるようになり、自ら“もの忘れ外来”へ。初診では認知症と診断されなかったのですが、異変から3年後の58歳の時に「若年性認知症」と診断されました。
◇「寂しい、一人にしないで」
妻が若年性認知症と診断された後も、家族は普段と変わらず接していました。
しかし、妻は、少しずつ自信を無くしていきました。突然「ピアノが弾けなくなった!」と荒れたり、「寂しいから一人にしないで」と繰り返したり、自分でできないことが増えてきて、不安だったんでしょう。私は、昔からチェロを演奏しており、練習のために外出することがありました。そのたびに、「行かないで」と過呼吸になるんです。「終わったら帰ってくるからね」と慰めても、不安感は日に日に強くなりました。妻の気持ちを尊重し、練習に行くことをやめました。すると、驚くほどに気持ちが安定したんです。もっと早く寄り添えば良かったと後悔しました。
妻は症状が進行してからも、ピアノの練習を続けていました。二人で一緒に音楽を奏でる時間はとても幸せでしたね。演奏中の妻は、本来の明るさを取り戻していました。
妻との接し方について、私の場合ですが、インターネットでは一切調べませんでした。調べてうまくいくこともあると思いますが、当事者はみんな違う人間。生きてきた環境や考え方が違うので、反応を見ながら会話をするよう意識しました。
◇タイミングが大事
若年性認知症と診断されてから約2年後、日常生活に支障が出始め、要介護1と認定されました。この頃、若年性認知症の当事者とその家族が参加する交流会に通うようになりました。この会では、当事者とその家族がレクリエーションや相談会を通して親睦を深め、悩みを共有することができました。また、若年性認知症の方は体力がある方も多いので、就労のサポートもありました。若年性認知症の方の就労は、タイミングが大事。症状が進行していないと福祉的就労を拒んでしまい、逆に進行しすぎてしまうと働けなくなってしまいます。妻はベストなタイミングで介護事業所での仕事を紹介してもらえたので、1年4か月の間、仕事をすることができました。
◇笑顔でいてほしい
私は20代の頃から、結核やがんなど、さまざまな病気を患ってきました。病状が悪く、死を考えることもありました。そんな時、支えてくれたのが妻でした。妻がいたから今の私があります。妻がいつまでも明るく笑顔で生活できるよう支えたいという気持ちが強いのは、恩返しをしたいという気持ちがあるからなんです。妻が若年性認知症になった後、私のがんが再発したこともありましたが、ショートステイの利用や、子どもたちの協力により、乗り越えることができました。
◇陽だまりの輪の始まり
交流会にはたくさん助けられました。そんな交流会が、事情があって解散することとなったのです。若年性認知症の方を受け入れている交流会は少なく、解散してしまっては、多くの方々が困ってしまうことから、この活動を続けていく必要があると強く感じました。
そこで、当事者の家族3人と、看護師、介護士の計5人で新たな交流会を立ち上げることを決意。2021年7月、“若年認知症家族会「陽だまりの輪」”を創設しました。家族同士の交流や専門家への相談をすることができ、みんなで旅行に行くこともあります。若年性認知症の症状が進むと、トイレや入浴も介助が必要になり、夫婦二人での旅行は難しくなります。しかし、交流会での旅行には看護師なども同行するので、当事者も家族も安心して楽しむことができるんです。
◇一人で悩まないで
介護をする方は一人で抱え込まず、誰かに相談し、一緒に考えましょう。介護をする方の元気がないと当事者の方も不安になってしまいます。当事者の方は、積極的に人と会い、考え、脳を活性化させましょう。
区内では、いろんなところで交流会やオレンジカフェ(認知症カフェ)が開催されています。ぜひ、気軽に参加してください。
■若年認知症家族会「陽だまりの輪」
もの忘れに悩む方やその家族など、どなたでも参加できます。
内容:相談や情報交換など
☆別途個別で相談することもできます(原則30分)
日時:9月14日(土)・17日(火)午後1時30分~4時
会場:桃園区民活動センター(中央4-57-1)
参加費:内容により200円〜500円(お茶代等)
申込み:電話で、陽だまりの輪へ
【電話】3311-2955
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