【特集】「すぎなみビト」杉並区登録手話通訳者(1)
「杉並区手話通訳者派遣事業」では、区の手話通訳講習会などを受講し手話通訳者認定試験に合格した登録手話通訳者が、聴覚に障害のある方などからの要請に基づいて、医療現場や各種会議・講演会などさまざまな場面に出向き、意思疎通の支援を行っています
プロフィール:
阿部有美(あべ・ゆみ)手話通訳者歴22年
新井加奈子(あらい・かなこ)手話通訳者歴13年
山本清子(やまもと・きよこ)手話通訳者歴9年
■手話通訳者を目指した、それぞれの出発点
Q:皆さんはどんなきっかけで、手話を始めたのですか?
阿部:歯科衛生士をしていたとき、聞こえない患者さんが来院されて、その方と話したいと思ったのがきっかけです。筆談でも必要なことは伝えられますが、たわいもない会話は難しい。ちょっとした会話が治療の不安を和らげることもあるので、聞こえない患者さんとも雑談ができたらいいなと思い、広報紙で見つけた手話講習会に参加しました。その後、手話通訳者として活躍する先輩の姿に憧れて、私も手話通訳者を目指しました。
新井:私は最初、子どもが通う幼稚園で難聴のお母さんに出会い、彼女から手話を教わるようになりました。やがて保護者仲間で幼稚園の中に手話サークルを立ち上げて、幼稚園の園歌に手話をつけるなど活動していきました。その後、せっかく始めた手話なので本格的に勉強してみたい気持ちもあり、区の手話講習会に参加して、数年かけて手話通訳者になりました。
山本:私が手話に興味を持ったのは、聴覚障害者を題材にしたテレビドラマがきっかけです。当時はドラマの影響もあり、自治体の手話講習会は満員だったので、月謝を払い手話教室に入会しました。教室では聞こえない先生が指導してくださって、いつかその先生の手話通訳をきちんとできるようになりたいという思いが、手話通訳者を志す後押しとなりました。
■手話通訳者としての活動は、日々学びの連続
Q:手話通訳者として、日頃どのような現場で通訳を担っていますか?
山本:各自が学校・医療関係の場など、さまざまな場面で手話通訳者として仕事をしていますが、共通で区手話通訳者連絡会(以下、連絡会)にも所属しています。連絡会では、私と阿部さんは区の広報番組「すぎなみスタイル」を担当。映像の端に出る小さな画面(ワイプ)を通して、内容を手話で通訳する仕事です。
新井:私は、区役所の区政相談課で手話通訳を担当しています。聞こえない方が区役所へ来庁するときに、該当する窓口まで同行して通訳をします。
Q:対面と映像を通しての通訳では、どんな違いがありますか?
阿部:映像は平面なので、前後で手を行き来させる動きは伝わりにくいんです。手振りが大きすぎると画面から切れてしまうので、そこも注意。あくまで画面で見たときにきちんと伝わる手話であることが大切。また映像は不特定多数の人に見られるものなので綿密に打ち合わせと確認をして撮影しています。このあたりが対面での現場との大きな違いかもしれません。
新井:対面の通訳はその場のコミュニケーションなので、とっさに考えなければならない場面も多いです。以前人間ドックで通訳をしたとき、肺活量の測定で「思い切り吸って勢いよく吐く」がどうしてもうまく伝わらず、何度も測り直しさせてしまった苦い思い出があります。
Q:ベテラン手話通訳の皆さんですが、新しく手話を覚える機会もありますか?
阿部:それはもう、たくさんあります。日々新しい手話は生まれているので、覚えて学ぶことの繰り返しです。20年以上手話通訳に携わっていますが、つい昔の手話が出てしまうと「古い!」なんて言われちゃいます。若者の何気ない会話や新しい言葉も、すぐに手話ができるんですよ。例えば「ヤバい」など。もちろん正式な手話通訳の現場では使えないものもありますが、手話としては存在します。
山本:方言もありますよね。私は地方で手話を始めたので、その土地でしか通じない手話もありました。
新井:例えば「名前」とか「休み」という日常用語も、関東と関西だと手話での表現が違うから面白いですよね。
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