■ジェンダー・ハラスメント~私たちの無意識な固定観念が生み出す差別~
ジェンダーの問題は、社会環境とともに変化がみられるとはいえ、無意識の思い込みや固定観念、文化などがいまだに根強く残っています。
区の講座・研修講師も務める弁護士の上谷氏にご寄稿いただいた文章から、身近なジェンダー・ハラスメントについて考えます。
▽執筆者プロフィール
・上谷さくら氏
弁護士(桜みらい法律事務所所属)
犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長、第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員、保護司。メディア出演や、裁判所、警察、地方自治体、学校などでの講演も多数。著書に『新おとめ六法』『死刑賛成弁護士』などがある。
◇はじめに
「ジェンダー・ハラスメント」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
「ジェンダー」とは、社会的に作り出された性差や性別のことです。例えば「男の子はブルー、女の子はピンク」「仕事をして家族を養うのは男性、家事や育児をするのは女性」というものがジェンダーです。生物学的な意味での性差・性別とは異なります。ジェンダー・ハラスメントとは、性差や性別によって社会的な役割が異なるという固定的な観念に基づいて、差別的な取り扱いをすることです。セクシュアル・ハラスメントと似ているように思われますが、セクシュアル・ハラスメントはその言動に性的意味が含まれるのに対し、ジェンダー・ハラスメントは、言動自体に性的意味は含まれない点で異なっています。
◇職場におけるジェンダー・ハラスメントとは
職場でのジェンダー・ハラスメントの例として、
・通常業務に加え、女性だけに来客者へのお茶出しや案内をさせる
・「子育ては女性の仕事」などと言って男性に育休を取らせない
・能力に関係なく、男性をメイン、女性を補助的な仕事に就かせる
などが挙げられます。どれも職場でよく見られる光景ではないでしょうか。このようなことが行われると、労働者の労働意欲が削がれて生産効率が下がったり精神的に辛くなり仕事を辞めざるを得なくなったりします。ジェンダー・ハラスメントが職場内で横行すれば、企業にとってもデメリットしかありません。男女雇用機会均等法では、事業主が労働者の配置、昇進、降格、教育訓練に関して労働者の性別を理由として差別的な取り扱いをしてはならないと定め、労働契約法では、使用者が労働者の生命・身体等の安全配慮義務を負うことが定められています。ジェンダー・ハラスメントを受けた場合、労働者は企業に対して、損害賠償請求をすることも可能です。
◇幼児期から刷り込まれた固定観念
ジェンダーにまつわる問題は、職場に限ったことではありません。保育園や幼稚園の先生は、圧倒的に女性が多いのが現状です。そのため「子育ては女性の仕事」という考え方が幼児の頃から刷り込まれているかもしれません。ジェンダー・ハラスメントというのは私たちが幼児期から刷り込まれている固定観念であり、ジェンダーにまつわる問題とは切り離せません。
「生徒会長は男子、副会長は女子」などという雰囲気がまだまだ残っている学校では女子は会長に立候補しにくいのではないでしょうか。また「お弁当を作るのはお母さん」という家庭では、それを見て育った子どもたちにも「ご飯を作るのは女性の仕事」と刷り込まれ、女性は料理上手でなければ結婚できない、などの歪んだ結婚観が生じたり「愛妻弁当」といった言葉が職場で日常的に使用されたりします。
「女の子は大学に行かなくていい、と親に言われた」という悩みを打ち明ける学生もいます。
◇社会的に作り出された性差
最近は少し変わりましたが、テレビのニュースで、メインは中高年の男性キャスターでどんな時事問題も説明でき、サブの若い女性キャスターがその男性キャスターから教えてもらう、という構成が多くみられました。実際は、若い女性キャスターの方が適任であっても、そのような場面を多く見ることで、私たちには無意識に社会的に作り出された性差についての考え方が染みついているように感じます。
また「男性はしっかり稼いで一家の大黒柱であるべき」という古い価値観のため、男性は経済力を理由に結婚に消極的となり、女性も理想が高くなってしまい相手が見つからないなど、さまざまな場面でジェンダーの問題は悪影響を及ぼしています。
世界経済フォーラムが2024年6月に発表した「Global Gender Gap Report 2024(※)」によれば、日本のジェンダー格差指数は、調査対象となった146カ国中118位という結果が示されています。
※…各国を対象に、政治・経済・教育・健康の4部門について、男女の間の格差を分析してスコア化し、各国のジェンダー平等達成度の順位をつける。
日本は、教育・健康部門では、世界トップクラスだが、政治・経済部門の低迷が続き、男女格差が大きい結果となっている。
◇人として尊重する気持ちを
ジェンダー・ハラスメントは、社会の歪みを生み、生きづらさに直結します。そのような社会は誰にとっても不幸です。これまで社会で当然とされていたことが本当に望ましいことなのか、違和感を覚えることはないか、立ち止まって考えてみることが大切ではないでしょうか。
一人一人が、性別で判断するのではなく、人として尊重する気持ちを持つことが大事だと思います。
■ハラスメントなどに関する主な相談窓口
◇東京都労働相談情報センター
・東京都ろうどう110番(職場に関すること)
【電話】0570-00-6110
月~金曜日…午前9時~午後8時
土曜日…午前9時~午後5時
(祝日・年始年末を除く)
◇法務省
・みんなの人権110番(人権全般)
【電話】0570-003-110
月~金曜日…午前8時30分~午後5時15分
(祝日・年始年末を除く)
担当課:人権推進課
【電話】03-5654-8148
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