■世界に誇る唯一無二の人形芝居 文楽
伝統芸能の拠点である国立劇場(千代田区隼町4丁目1番)は、施設の老朽化に伴い、5年10月末をもって閉場。建て替え期間中、国立劇場主催の「文楽」公演の会場の一つとしてシアター1010が選ばれ、5年12月から公演を行っています。今回、6年4月に「十一代目豊竹若太夫(わかたゆう)」(義太夫界における由緒ある名跡(代々襲名する名前)。今回の襲名は、十代目が1967年に逝去して以来、57年ぶりの名跡復活となった)を襲名し、5月にはシアター1010で襲名披露公演を行う予定の豊竹呂太夫師匠と足立区長の対談が実現!文楽の魅力や楽しみ方を語っていただきました。
※以降、敬称略
◇歴史あるまちで歴史ある芸能を
近藤:待ちに待った公演が、5年12月からシアター1010ではじまりました。
呂太夫:良い劇場ですねえ。とにかく音響が良いですし、人形もよく見えます。太夫(たゆう)や三味線が登場する「床(ゆか)」の回転もしっかりできてて、字幕も使えて、言うことなしですよ。劇場を出れば、おいしいもんを飲み食いできるお店がいっぱいの、にぎやかなまちです。やっぱり劇場は、まちなかにあるのが本来の姿やないですかね。
近藤:千住に宿場ができて、来年で400年です。
呂太夫:そんなに長い歴史があるまちなんですね。「義太夫節(ぎだゆうぶし)(当時の大阪で人形芝居「人形浄瑠璃」の語りとして成立した三味線音楽)」が今の形になったのも、かなり昔のことですよ。竹本義太夫(たけもとぎだゆう)が、作者の近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)と組んで、『出世景清(しゅっせかげきよ)』を上演した1685年がはじまりとされていますから。
近藤:伝統ある芸能ですが、ちょっと敷居が高く感じてしまうかも。
呂太夫:いやいや、そんなことはありません。誰でも楽しめると思いますよ!古典芸能というのは、昔のもんが目の前でど~んと演じられるわけですから、今の人にとっては、何でもかんでもきっと新鮮なはずなんです。はじめて文楽を見たら、そら忙しいですよ。太夫はとんでもない大声を出すし、太棹(ふとざお)という大きな三味線がベンベン鳴るし、人形の後ろでは遣うてる人が顔を出してるし、字幕は見なあかんし、筋も追わなあかん。でも、それでええんです。そうやって、あっちこっち見たり聴いたりしているうちに、その人がおもしろいと感じるところを、ちょっとずつ拾ってもらえるはずですから。
近藤:昨年9月に区内で開かれた文楽の入門講座も盛況でした。
呂太夫:あのときは、おもしろかったですよ。はじめはちょっとかしこまっていた人たちが、どんどん盛り上がってくれて。地元の大阪は別として、全国あちこちで演(や)ってきましたけど、あれだけよく乗ってくれるお客さんは、ほかにはおりませんでした。足立区は特別ですよ!文化を楽しむ姿勢や感性が文楽の生まれた大阪に似てるんと違いますか。
近藤:ええっ!それは、最高の褒め言葉かもしれません。
◇一生をかけて歩む芸の道
近藤:一つの物語を太夫と三味線と人形で描き出す。文楽は三位一体の芸と呼ばれますね。
呂太夫:僕は、そこにお客さんも含めて、四位一体やないかと思うてます。文楽の人形はもともとは木で作られてる、ただの木偶(でく)でしかないんです。そんな人形が、泣いたり笑ったり悲しんだり喜んだりして、まるで生きてるように感じるのは、お客さんがそこに自分の気持ちを投影してるからやないでしょうか。
近藤:観客も、物語を描き出すための当事者の一人、ということですね。その四位一体の境地には、いつもなれるものでしょうか。
呂太夫:若いころは僕もお客さんの反応まで、気が回りませんでしたね。それが、このごろようやく、「あ、今お客さんも乗ってくれてるな」と感じられるようになったわけです。ときどき、会場全体が四位一体になってるように感じることがありますよ。そうすると、お客さんと一緒に舞台の中を歩んでるような感覚になって、これが本当にうれしいんです。
近藤:大きな声で語る太夫ですから、日ごろから喉を大事にされるのでしょうね。
呂太夫:喉も大事ですが、もっと大事なのは、腹なんです。稽古で鍛えるだけやなく、身のこしらえにも工夫をしないと、腹から声は出せません。外側からは見えませんが、下腹には、帆布(はんぷ)のような硬い生地でできた「腹帯(はらおび)」を何重にも巻いて、力を込められるようにしてます。はじめのうちは、ろくに声さえ出せませんが、30代、40代と稽古を重ねることで、ようやく10分、20分と語れるようになっていくんですよ。僕は今、76歳ですけど、次の公演では、毎日1時間ほど語り続けることになります。若いころには、とてもそんなに長く語れませんでした。
近藤:健康にも、ずいぶん気を配っておられるのでは。
呂太夫:睡眠はしっかり8時間は横になるようにして、起きてからは、ストレッチや腕立て伏せ、スクワットとか。そして、ジャガイモの研ぎ汁。芽や皮をとってすりおろした白い汁を毎朝飲むと、喉から胃や腸までみんな調子が良いんですよ。内弟子をしてた師匠(四代目竹本越路太夫(たけもとこしじだゆう))に作ってるうちに、自分も飲むようになったんです。
近藤:なるほど。私も試してみようかしら。
呂太夫:ぜひ!おすすめしますよ。
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