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国際交流員ウィルペルトのコラム

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栃木県下野市

■続・ドイツ 車の国
Deutschland Autoland(ドイッチュランド アウトランド)

前回のコラムで、ドイツには制限速度がない道路はあるものの、アクセルを思うように踏めない要因のひとつに「ドイツの道路は結構混んでいる」ことがあると書きました。もうひとつの要因は、高速でのドライブは、状況によっては本当に高くつくということです。
車でスピードを出せば出すほど燃料を消費するのはもちろんですが、ある速度を超えると燃費が急上昇することをご存じですか?
これは、空気抵抗が速度に応じて二次関数的に増加するため、そして、エンジンの回転数を下げるために高いギアにシフトチェンジすることがもうできなくなっている(すでに一番高いギアに入っている)ためです。例えば、経済的な車としてドイツ人に人気のGolf71.5TSIは、100kmの距離を等しい速度で走った場合、時速100kmで4.1リットル、時速120kmで5.1リットルのガソリンを消費するのに対し、時速200kmでは14.6リットルを消費します。そんなに経済的ではない他の車なら、時速200kmでガソリンの消費量が20リットルを超えることがよくあります。ガソリンの価格で考えると、現在ドイツでは、1リットルのディーゼルは1.85ユーロ/293円で、レギュラーガソリンは1.93ユーロ/306円がかかります。なので、Golf7で100kmを時速100kmで走るとおよそ1,250円かかる計算ですが、30分早く到着するために時速200kmで走ると4,470円になります。50%の時間節約のために、約358%の値上げです。しかも、これは道路に他の車がほとんどなく、常に時速200kmで走れたら、という想定での計算です。もしも途中でブレーキを踏んだり、また加速したりしなければならないのなら、もっと高くつきます。
私は日本に来たとき、箱のような形の車が多いのを不思議に思いました。日本の軽自動車などは、ヨーロッパの車に比べて車高が高く、角張って見えます。
特に、日本の車のフロントの形状が気になりました。私が見かける日本の車の多くは、フロントが垂直に真っすぐで、私にはまったく流線型ではないように見えます。これでは風を切る矢ではなく、風に立ち向かう壁のようです。空気抵抗は車の燃費を悪くするので、同じ重さの車でも流線型だったら、持ち主のガソリン代が安くなったり、温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を減らしたりできるのになと思います。
次に不思議に思った点は、日本の車の車高と車幅です。ヨーロッパの車より幅が狭いのに、車高は高いです。そのような日本の車を見たとき、25年ぐらい前にメルセデスベンツのモデルAクラスが、ある安全性テストに大失敗したことを思い出しました。
当時のAクラスの特徴は、コンパクトカーなのに普通車よりボディが高く、中のスペースが広いことでした。ある車専門雑誌が、Aクラスをカー・オブ・ザ・イヤーの候補に含め、スウェーデンでいくつかのテストを受けさせ、その様子を撮影しました。その中に「子どもテスト」という安全性テストがありました。このテストは、例えば道路に転がったボールを子どもが追いかけて飛び出してくるなど、道路上に突然障害が出現した場合を想定し、運転者がブレーキをかけずに回避操作を行ったときの車の動作を調べるものです(本紙図参照)。
Aクラスは、わずか時速60kmでバランスを崩して転倒し、さかさまになって静止しました。カー・オブ・ザ・イヤー賞をもらうどころか、撮影されたイメージがヨーロッパ中に注目され、メルセデスの悪夢になってしまいました。
メルセデスはAクラスをリコールし、高い重心を低くしたり、ESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム:車両の横滑りやスピンを防止するための安全装置)を標準装備にしたりし、Aクラスはそれから大人気になりました。その後、他の自動車メーカーも自社の小型車に似たような安全装置を組み込むようになり、この大失敗がヨーロッパの小型車の安全性を高める結果となりました。
ちなみに、ドイツでは、先ほどのテストは「ヘラジカテスト」として知られています。このテストはスウェーデン発祥で、ドイツでは、スウェーデンの広い田舎で道路上に突然障害が現れるならきっとヘラジカだろう、というイメージがあったためだと思います。それにちなんで、メルセデスは安全になったAクラスを買った人たちに、ヘラジカのぬいぐるみをプレゼントしました。

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