■ビタミンの話 その6「ビタミンC(2)」
上都賀郡市北部地区医師会幹事(藤原地区)
川村医院
川村 英樹(かわむらひでき)
前回に引き続きビタミンCについてのお話をしたいと思います。
ビタミンCの欠乏から起こる疾患として、歴史的に壊血病(かいけつびょう)が知られています。現代社会で見ることがまれなこの疾患は、15世紀以降、大航海時代を迎えた中世ヨーロッパにおいて、航海中の船員の間で流行しました。壊血病はビタミンCの欠乏が長期間続くと発症する病気です。皮膚は乾燥し毛髪が縮れます。歯肉や粘膜、皮膚からの出血、さらに下血や血尿も見られ、最後には免疫力も低下、精神は錯乱し、ついには死に至ります。航海中新鮮な野菜や果物が手に入らず、ビタミンCの欠乏状態に陥ったのが原因でした。
1753年、イギリス海軍軍医ジェームズ・リンドによって壊血病患者にオレンジやレモンを与える実験がなされ、患者の症状が改善することが確認されました(残念ながら、この時イギリス海軍省はこの結果を無視してしまいます)。1768年から約3年間、南太平洋の探検にあたったジェームズ・クックは壊血病に対するあらゆる対策を立てたそうです。寄港地で新鮮な食品を取らせるなどの努力により壊血病を減らすことには成功しましたが、壊血病の完全な予防はできなかったようです。麦汁やロブといわれる果汁を加熱処理したものが有効であったと誤った報告をしたようですが、ビタミンCが加熱処理で壊れてしまうことは知る由もありませんでした。
1798年、ネルソン将軍率いるイギリス軍は、ナポレオン率いるフランス海軍との戦いにおいて壊血病患者を出さなかったといわれています。船員に果物を食べさせていたためです。対するフランス軍は壊血病に悩まされていたようです。
そして現代では、ビタミンCが欠乏することはごくまれですが、妊娠中、高熱などの炎症疾患、長期に続く下痢、甲状腺機能亢進症(こうしんしょう)、手術ややけどなどのストレス状態、喫煙などの状態では、体が必要とするビタミンCの量が増えており、欠乏症のリスクが高まるといわれています。
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