■花開いた「7つの宝」
栃木市長 大川秀子
▽「渡良瀬」流の多彩な活用法で豊かな湿地を守り継ごう
「えいっ」。外来種のセイタカアワダチソウを、力を入れて抜くと根っこごとすっぽり。気分爽快です(写真)。
5月初旬、ここは遊水地の旧谷中村役場前にある「ハート池」。汗をかいて作業すること1時間弱。市民ら約130人で約1トンを抜き取りました。太陽の光が届いた地表には、絶滅危惧種のタチスミレの白、ミゾコウジュの薄紫の花々が。人の手に守られて、今年も希少種の「お花畑」が楽しめます。
魅力と楽しみ方を紹介してきた連載は、60回目で総集編の今回、栃木市長の私、大川秀子が案内役です。市の主催行事などで年に10回は通います。行くたびに、14年前に新生栃木市が誕生した合併があったから、市全体で魅力を共有できるんだと実感します。
最新のキーワードは、「家族愛」や「絆」でしょうか。まず特別天然記念物のコウノトリ。遊水地は5年連続でひなが誕生しました。栃木市側では、産卵した後にふ化には至りませんでしたが、2羽が協力して卵を温めようとする姿を、現地で、ライブ映像で見守り感動しました。人間社会もあやかりたい家族愛です。来年こそはと期待します。さらに、「恋人の聖地」。大きなハート形の谷中湖とハートランド城が一昨年、選定されました。若者の出会いの場にとイベントに活用しています。
式典などで開会挨拶をすることも多いのが、一年中にぎわうスポーツ・レジャーです。先日、熱気球パイロットの藤田雄大(ふじたゆうだい)さんが市役所を訪問してくれ、今秋の世界選手権に日本代表として出場する抱負を語ってくれました。10年前に日本人初の優勝を経験し、今は栃木市民になって遊水地の空を飛び続けています。一昨年の国体では、谷中湖がボートとカヌーの特設競技場になりました。競技関係者は、首都圏の近くにこんなに豊かな水面と、会場となる広い空間があることに驚いていました。陸上のスポーツでも、自転車が楽しめるサイクルパークが出来ました。ぜひ活用ください。
12年前のラムサール条約湿地登録のころ、盛んに議論されたのが、地域を洪水から守る「治水」と、湿地を維持する「環境保全」の両立でした。今日も不変で、豪雨災害が激甚化する中、国や周辺自治体と連携して、治水機能を十分に発揮できるようにしていきます。
忘れてはならないのは、遡れば足尾銅山の鉱害から始まり、谷中村の人々が村を離れたつらい歴史があったことです。昨年、その苦難を描いた小口一郎画伯の展覧会を県立美術館で観て、思いを新たにしました。かつての鉱害の地が、自然豊かによみがえり、治水でも人を守っている。語り継ぐべき、すごい財産だと思います。
こうして人々の知恵により、ほかのラムサール湿地にはない多彩な役割、活用策が花開きました。連載で紹介してきた7分野が、遊水地の「7つの宝」(図)です。
図:水地が誇る7つの遊宝
・生き物
・深い歴史
・賢い活用
・スポーツ・憩い
・観光
・営み
これらはバラバラに見えて、一つの共通点でつながっています。そこに「健やかな湿地とヨシ原」があり、活用の舞台はどれもその「恩恵」であることです。では、その恵みとは――。希少な動植物が住みかを得、ヨシズや雅楽器への活用など産業が出来、市民は憩いの場を手にします。環境面ではCO2を吸収し、水を浄化し、また森林化を抑えて洪水を貯めて、市民生活を守ってくれます。
「7つの宝」はまた、恩恵の結果であるだけでなく、遊水地の機能をこれからも持続する上で、とても重要な役割を果たすことが期待されます。憩いや産業、環境、治水、文化などあらゆる面から、たくさんの人々の手で保全し、ヨシ焼きも含めて調えることで、放っておけば荒れ、衰えかねない貴重な湿地全体を守り、保てます。治水と湿地保全、更に賢明な利活用を併せて達成しつつ、同時にめざす循環型で持続できる道筋が描ける、いわば「渡良瀬遊水地モデル」を形作っているのです。
みんなで、楽しみつつ、人の手で補って自然と連携し、渡良瀬遊水地というかけがえのない舞台を調えて、次世代に守り継いでいきましょう。(終わり)
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