DXによる将来展望(つづき)
●それぞれが描く未来のDX社会
渡辺:私が目指す理想像が「那須塩原にいれば生き延びられるまちづくり」なんです。自然災害、パンデミック、戦争など命を脅かす事象を目の当たりにして「自分の一生は何事もなく平和に終えられるんだ」と思っている人はおそらく少ないと思います。そんなとき、食、エネルギー、防災力などあらゆる面でここに住んでいれば安心できるまちだったらいいじゃないですか。その安心材料の一つが情報だと思うんですよね。現在、みるメールや市公式LINEで情報配信していますが、みるメールは登録者2万人、LINEもそれに迫る勢いで登録者が増えています。コロナ禍では、LINEを使ったアンケートの結果をもとにワクチンの接種希望者数を推計したのですが、実際の接種率とズレがなかったので、コミュニケーション手段をデジタル化することの可能性を感じました。紙で接種希望者数を把握するとなったら膨大な時間と手間がかかりますが、それが数日で完了するなら使わない手はありません。「双方向性」というのも重要なキーワードかなと考えてまして、単に市民と市の間のコミュニケーションだけでなく、「地域ポータル」のように市民個人が所属している学校や自治会といった組織間でのコミュニケーションもDXで便利になっていくといいですね。
岡田:地域ポータルが最終的に個人ポータル化していくといいですね。行政は申請主義ですから、住民の申請に基づいてサービスが提供されることがほとんどです。人間ですので、どうしても手続きが漏れてしまうこともあります。そういうのをスマホの通知で教えてくれたら便利ですよね。例えば、電子母子手帳にも関連しますが、サービスとマイナンバーカードを連携させたら、生まれた日から起算して予防接種の案内や保育園入園の通知が節目にスマホに届くとか、病院に通院した履歴から次回の通院のタイミングを教えてくれるとか。届いた通知の内容が分からなければ最寄りの公民館で相談できるとか。まさに「ゆりかごから墓場まで」といったように節目で生活に必要なサポートを行ってくれるサービスのイメージです。これであれば本来提供されるはずのサービスが漏れていた、なんてことも防げます。
渡辺:移動手段も大事な生活インフラだと考えています。MaaS(※)の実証を行っていますが、本市は市域面積が広いこともあり移動の選択肢が限られてしまっているのが現状です。地方だからこその課題であり、地方こそDXの恩恵を受けられる良い例でしょう。観光パスポートを導入して観光客にもDXの恩恵を、と取り組んでいますが、移動手段も同様に、より便利にしていかなければならないと感じています。今後、自動運転などテクノロジーの実装段階を踏まえながら、活用場面を模索したいと思います。将来的には、庁舎に行かずともオンラインでワンストップにサービスが提供されるようにしつつ困ったときに駆け込めるよう、核となる公民館を福祉的拠点・防災的拠点にできないかなと。地域によって求められるサービスも異なると思いますし、公民館レベルである程度の災害対策が完結できれば有事の際も安心じゃないですか。昨年度からスマート公民館の実証を行っていますが、ニーズも踏まえながら公民館のあり方も考えていきたいと思います。
※MaaS…「Mobility as a Service」の略語。住民や旅行者の移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動手段を最適に組み合わせて検索・予約・決済などを一括で行うサービス。観光や医療など、交通以外のサービスとの連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する。
●求められる情報格差対策
岡田:高齢者ほど「デジタル」というものに対して苦手意識を持つ人が多いと思うのですが、そういった方々ほどテクノロジーの恩恵を受けられると思うんですよね。車の衝突防止機能がいい例です。市長が仰る「生き延びられる」にも通じますが、いわゆる「見守り」が必要な方に関しては「テレビ画面」を通したサービス提供が有効だと思います。朝テレビをつけると市が提供するポータル画面が立ち上がって、そこから市の情報が受け取れて、ボタン操作をすると自動で安否確認が自動でされるとか。他にも方法は考えられますが、デジタル活用は、万人にとっての快適さにつながります。
渡辺:過去にスマートメーターを使った見守りの実証を行いました。現在は民生委員や自治会をはじめ、「人」による見守りなのですが、担い手の高齢化など課題も多いです。ウェアラブルデバイス(※)をつけて健康状態をモニタリングするとか、人の手を使わずに支援ができる「デジタル民生委員」のような仕組みもこれからの高齢化社会の課題解決に絶対必要かなと…。そのためにはデジタルに対する理解が必要ですので、小学校からタブレットに慣れ親しんでもらうほか、高齢者向けにはスマホ教室などでデジタルに触れる機会を増やしつつ、シルバー世代の中でもデジタルを広めてくれる役割の人を設けたりとか、そういう流れも作っていけたらと思っています。誰一人取り残さず、幸福度の高い便利なDX社会の実現に向けて、岡田フェローには引き続きご指導いただければと思います。まさにウサイン・ボルトから走り方を教わる、そんな贅沢なお願いではありますが(笑)。
※ウェアラブルデバイス…身に着けることができる小さな電子機器のこと。例えば、時計型のスマートウォッチや腕に巻くフィットネスバンドなど。身に着けて使えるので、手軽に情報をチェックしたり、健康を管理したりするのに便利。
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